昨年もシリコンバレーには多数のレイオフのニュースが流れました。『レイオフと背中あわせ』という一面も、ここシリコンバレーは持っているのです。今日はそのレイオフについて実際にレイオフを体験されている方のお話をまじえながら、『レイオフ』の真相を追ってみました。


<日米レイオフの違い>
・アメリカにおける労働契約はat will契約である。at will契約とは双方向にフェアな契約で、社員はいつでも辞めても良い。しかし、裏を返すといつでも首になることを意味している。
・アメリカの雇用は、その場限り。仕事が無くなり、人に余剰感があれば、すぐさまレイオフ。人が足りなくなったら雇い直せば良いという発想なのだ。日本は仕事がなくなったとしても、人材をキープして育てあげるという発想が根強い。純和風の組織と個人は運命共同体的な発想はアメリカには薄い。
・日本にはまだまだ終身雇用的発想が根深いと言ってもいいだろう。しかし米国では終身雇用なんてありえないのが通例。だから中にはレイオフされても「けろっ」としている人すらいるのだ。
・3年間でレイオフ3回目という人もいる。中には「人生7回は転職する。」と豪語する人もいるほど。
<レイオフの予兆>
・とあるバイオベンチャーでの話。ある日、社内に衝撃が走った。レイオフの噂が社内を駆け巡ったのだ。案の定1週間後にレイオフが発表され、残り1週間で雇用が終了するという通達を受けた。しかし、この後のフォローがアメリカらしい。面接の心得からイミグレーション問題のコンサルティングまで、幅広く再就職虎の巻を伝授された。おかげで就職活動も落ち着いて行えた。
・とあるコンサルティング会社での話。その会社では、オフィスに社員がやたらいるのは仕事の受注が減ってきている表れだった。なぜならプロジェクトに乗ったコンサルタントは客先に常駐するからである。オフィスに社員がわらわらといたので、「これはやばい!!」と皆感じていた。数日後、案の定レイオフが発表された。
<荷物のまとめ方>
・ある会社の例。レイオフされた直後、ダンボール箱を一つ渡される。ガードマンの監視の目の前で、私物を箱に収め、即刻退出を命じられる。厳しい。
<レイオフ通達>
・ある会社の場合。「皆さん、〇時からMTGをやります。集まってください。」突然社員全員が召集された。MTGがはじまると、CEOが会社の経営状況が悪化していることを述べる。レイオフ勧告劇の幕開けだった。MTGが終わると、社員一人一人の所に人事が回ってきた。あなたは「残留」。あなたは「レイオフ」。肩を落とす者もあれば、安堵のため息をつく者も。実は会社に残る人だけに、前もってレイオフがある旨こっそりと連絡がされていた。
・ある会社の場合。「資源の配分を考えると幾つかのプロジェクトを打ち切る必要がある。」そんな説明があった。その後、「今後君に改善点が見られなければ、戦力外通告(Counseling Outという表現をしていた)を行うことになる」という勧告を受けた。しかも「改善勧告を実施した」という証明書にサインをすることすら求められた。(今までレイオフをしたことのなかった会社だったので、随所に不慣れな部分が如実に表れていた。)数十人のレイオフ枠の中に、自分も含まれているというのはなんとなくわかっていたが、調度転職も考えていた所だったので、レイオフの波に乗ずることとした。
<レイオフ(layoff)とターミネーション(termination)の違い>
・レイオフ(layoff)とターミネーション(termination)、どちらも日本語に訳すと『解雇』であるが、どうちがうのだろうか?ターミネーションは、社員のパフォーマンスが期待値以下なので、首を切ると言ったところだろう。一方レイオフとは会社の都合によるもの。保証金や休みなどを社員に譲渡してでも、会社を辞めてもらうといったところだろうか。
・またレイオフは会社の弱みを見せることにつながることもある。対外的にも「あの会社は経営が危い」と噂がたってもおかしくないのだ。それ故残った人の中でも、会社に見切りをつけて辞めていく人もいるほどだ。優秀だと思って残して置いた大事な社員が辞めていくというリスクを同時に会社は負っているのだ。
<レイオフ裏話>
・なまじ「仕事がつまらないあ、辞めようかなあ…」と悩んでいる時はレイオフされた方がお得なことも。保証金や未消化の休みをもらえるからだ。自分から辞めるなんてもったいない!?
<レイオフされたら何をする!?>
・映画をヒタスラ見て気分転換したり、ここぞとばかりに長期の旅行をする人もいる。
・もちろん就職活動。面接時に今までの業務実績を発表しなければならなかったので、その資料作りに勤しんでいた。と同時に知人友人に就職先を紹介してもらうようメールで連絡することも怠ってはいなかった。そのつてで面接のアポも取り、資料もばっちりで、無事再就職に辿り着いた。
・今度レイオフされたら、小説でもゆっくり書こうかな。(笑)
<出世を素直に喜ぶべきか?>
・給料の高い人ほど、レイオフの可能性も広がっていく。そういった人程会社の経費がかさむから当然といえば当然だ。また上に上がれば上がる程、レイオフされても、次のポストを探すことが難しくなることも否めない。そう思うと出世も必ずしもいいことではないのだろうか?
<レイオフされた時の心情>
・非常にナーバスだった。H1ビザ(労働を条件にUS滞在が許されるビザで、職を失い、次の職が即座に見つからない場合は帰国しなければならないビザ)での滞在だったので、日本帰国が頭をよぎり、とてもナーバスだった。無事すぐに次の仕事が見つかったので良かったが。
<レイオフ対策>
・ここシリコンバレーでは、レイオフは当たり前のようにあるもの。ならばレイオフされた時の準備をしておくことが大切だ。レジュメ(履歴書)を定期的にアップデートしておくことは基本中の基本。たとえささいなことであろうとも。
・いざという時にはやはり人脈がモノを言う。レイオフされた時、同僚が精神的にサポートしてくれた。中には一生懸命に仕事先を探して紹介してくれる者もいた。親身になってサポートしてくれたことには本当にびっくりしたし、今でも感謝している。逆に同僚がレイオフされれば、親身になって彼らをサポートする。ここシリコンバレーでは困った時はお互い様で、こういったネットワークがものを言うのである。普段の仕事をきっちりこなして、確実にネットワークを構築していこう。
・レイオフされた時、同僚や友達、お世話になった方々にレイオフになった旨をメールで連絡した。なんと、3時間以内に5人もの人から返事が返って来た。内容は次のようなものだった。
「いつでも相談に来て欲しい」
「ゆっくり次の仕事をさがせばいいじゃないか」(当時既にグリーンカードを保有していたので、滞在の問題がなかったから)
「こんな仕事があるが、やってみないか?」
持つべきものはネットワークである。
・ネットワークを上手に構築していたある人の話。この芳しくない景気の中で、レイオフ後2週間でなんなく仕事復帰を達成した。そんな彼は還暦に手が届く56歳。もちろん実力があっての話だが、恐るべし、「ネットワーク」!!。
・アメリカでは自分より年下の人が上司になることも少なくない。そんな時でも卑屈にならず、自分の経験をもとに、彼ら、彼女らに助言をすることで、信頼関係を築いていくことはとても重要なことだ。そうすることで人間関係ができていき、仕事がスムーズになるだけでなく、こうやってまた一つネットワークが作られていくのである。
・レイオフされた場合、ここシリコンバレーでは部下に仕事を紹介してもらうことすらある。上であろうが、下であろうが、誰とも精神誠意を持って接し、人として信頼されることが大切なのだ。いかなる時も、悪口だけは絶対駄目。