シリコンバレーに移り住みたい人が無視できないのが住宅事情。ここ数年間家の値段は沸騰を続け、現在は米国で最も家の値段の高い地域になってしまいました。この住宅事情について編集部でコメントを集めてみました。


このド田舎が米国で最も家の値段が高い土地?
アメリカの典型的なサバーバンにしか見えないシリコンバレーが米国で最も家の値段が高い所だとは、町並みを見るだけでは信じられない。もともとシリコンバレーの首都であるサンホゼは農業で栄えた都市。いまだに農地や牧場があちこちに残っているのが良い証拠。農業に従事する人達が集まって暮らした貧しい住宅地も残っている。所詮はサンフランシスコからみて田舎でしかなかったのだ。東京と筑波のような関係に近い。
トレーラーパークが高級ショッピングセンターに隣接していたり、貧困街の片隅に高級住宅街が突然出現したりするのがシリコンバレーの光景。現在は自動車のディーラーやショッピングセンターが立ち並ぶスティーブンズ・クリーク・ブルバードも少し前までは果物農園の通りだったらしい。農地を売った土地成金も多い。ずっと貧乏暮らしをしていたのに、いきなり自分の家が20年前に購入した値段の20倍の価値があることを知り、家を売ったと同時に仕事を止めて引退したような人も沢山知っている。
沸騰するハウジング・マーケット
家の値段が高い一つの理由は供給の少なさだ。良い物件は一週間としてマーケットに残らない。週末のオープン・ハウスまでのうのうと待っていては必ず良い物件を逃してしまう。WebのMultiple Listing Service (MLS)を利用してチェックを怠らないのは良いが、行動に起こすことも大事。好きな家を見つけたら、週末前にオファーを出す。オファーを受ける、受けないの返答も24時間しか期限を与えない。それ以上時間を与えてしまうと、より多くの買い手がその物件を嗅ぎつけて寄ってきてしまう。58万ドルで売りに出ていた小さな家が、16以上のオファーを集め、結果的に70万ドルで売れたようなケースにも出くわした。売り手がいつも強気のマーケット。買い手も負けてはいられない。中には、自分で好きな家を見つけ、家主に「その家を売ってくれ」と直接交渉する手段をとる人まで現れてきた。
家の値段がこのように法外に上がり続けることを信じ、とにかく家を購入して5年間だけのinterest Only(金利のみ支払い)ローンを組む人も多い。5年後には家の値段が必ず上がっているだろうという楽観視。
平均年収と家の価格のギャップ
米国では、年収の3倍が家の購入価格の常識だと言われる。この3倍が5倍や6倍になって`しまうのがシリコンバレーなのだ。新聞を読んでいたら、サンタクララ・カウンティで先月売れた家の平均価格が約70万ドル程度。今年の家の平均価格は50万ドルを上回ったばかり。つまり、家を購入できる人は年収が10万ドルでも足りない。サンタ・クララ全体の平均年収はまだまだ5万ドル程度だから家の価格とのギャップが良くわかる。そういった状況なので、独身者同士で金を集め、共同して家を購入するようなケースも多い。
いくら年収が良くても、欲しい家の値段の高さに絶望して家購入を諦め、アパートにずっと暮らすことを決意してしまった人もいる。「シリコンバレーで賃貸している人は高級車を購入する癖がある」とはよく聞く冗談。家を購入してしまった人は全くお金に余裕の無い生活になるが、賃貸している人は逆にお金が余ってしまうため、大きな買い物をする癖があるということ。
実際、ネバダ州などに豪邸を購入して週末はそこで暮らし、平日はサンタ・クララのアパートに暮らしている人の話なども聞いた。
家の広さ
どの大きさなら「広い」といえるのか。日本の100平方メートルが大体900平方フィート。900平方フィートなら1ベッドか2ベッドのアパート程度の大きさ。シリコンバレーなら、その2倍以上の2000平方フィートあれば、普通の大きさの家と言える。しかし、米国全体でみると2000平方フィートの家もまだまだ狭い家と言われる。他州から引っ越して来た人は、2500平方フィートの家に暮らしていても「家が狭い」「庭が狭い」と文句ばかり言っている。ユタ州から引っ越して来て同僚になった人は、3ヶ月たってもまだ家を購入できずにいる。ユタに暮らしていたときの家の大きさが6000平方フィートだとか。庭の芝刈りには、弁当を持って出かけていたというありさま。現在は最低3000平方フィートで5ベッドルーム、4バスの家を80万ドル以下探しているという。周りは「絶対に見つからないよ」と言ってあげているのだが。
豪邸
Los Altos, Palo Alto, Woodside, Athertonには豪邸が立ち並ぶ。ベバリーヒルズ化したこの地域で、普通の施工会社が豪邸建設を専門とする施工会社に変わってしまった例も多い。実際にロスガトスやサラトガの家の平均価格はべバリーヒルズと同等レベルまで上がっている。ベバリーヒルズのような豪邸見学が出来るようになるのも時間の問題かも?豪邸に付属したゲスト・ハウスを賃貸に出している人もいる。それを借りるのも面白い経験になるはず。中にはちゃんと仕事を持っているのに、そういった豪邸のプール管理や庭管理をする交換に、ゲストハウスに家賃タダで暮らしている人もいるらしい。
家転がし
この通り家の値段が沸騰しているので、家を転がしてお金を儲ける人も増えている。家転がしの秘訣は、出来るだけ壊れた家を出来るだけ良い地域で購入すること。その家を3ヶ月程度で徹底的に修復し、売ってお金を儲ける。Athertonで廃屋に近い家を4年前に30万ドルで購入した友人は、それを30万ドルかけて完全に建て直したところ160万ドルの査定を受けた。つまり、今、家を売っても100万ドル(約一億円)の利益が出るということ。ある出会ったリアルターは、元は家の修理を趣味としていた普通の人。家を購入しては自分で暮らしながら直し、直ったら売り、をしていたところ、これが本業になってしまった。ちなみに自分の手で直したことで上がった家の価値をSweat Equityと呼ぶ。
逆に家を購入して、出来るだけ直さない、という「パッシプ」家転がしもいる。修理費を出来るだけ節約し、家の値段が上がるとまた家の値段の上がりそうな地域の家を購入する。そういった家の転がし屋は、シリコンバレーの家の値段の高騰に煽られそうな近隣の住宅都市をマーケットとする。Antioch, Concord, Watsonville, Montereyなどの1-2時間程度の通勤圏内の都市が狙い目だ。
学区と家の値段
新聞を読んでいたら、あるインド人のカップルは家探しを学校のスコアだけをみて行っているという記事があった。彼らは家のサイズやベッドルームの数、ロケーションや家の造りなどに興味は無い。「学校のスコアが970点以上」といった具合にしか家を見ない。通りを越えて学区が変われば、家の値段は平気で20%-30%異なるほど学区の影響はとても大きい。自分の子供を良い学区に入れるだけのために友人に住所を借りたり、アパートを借りたりする人までいる始末。あまり見栄の良くない地域なのに、家の値段が想像以上に高い地域は、良い学区に位置している場合が多い。良い学区に暮らすと、良い教育を得られるだけが得策ではない。家の値段が下がりにくいという投資目的にもつながる。また、良い学区に暮らす金持ち達とネットワークを築けるという指摘もあった。
おまけ:気軽に家を購入する
アメリカ人は一生に家を3回買うという。最初は結婚した二人のスターター・ホーム。次は子供が出来たためサバーバンに大きな家を購入。最後は子供が家を離れ、引退した二人のための家。日本の家購入との大きな違いは保証人が要らないということ。だから、まるで車を購入するように簡単に家を買うことが出来る。もう一つの大きな違いは抵当(モーゲージ)。アメリカなら支払いに困れば、最悪Foreclosure(抵当流れ)をすればローンから逃れることが出来るということ。簡単に言うならば、月々の支払いが無理になれば、単純に家を手放すだけて良い。言ってみると、日本は抵当を家の購入者と保証人にかけるが、米国は家そのものの価値しか見ないからだ。そのため、家の査定方法もかなり細かい決め事が多い。Foreclosureしてしまうと、自分のクレジット・スコアがボロボロに傷ついてしまうという厳しい事実があるのも忘れずに。
おまけ2:家にまつわるルールなど
日本以上に米国は環境美化にこだわる。家の外観や植栽についてCityやCountyによってルールが決めてある所が多い。例えばSan Joseなどは、家の道路側の土地を緑化することを義務付けている。つまり、芝を貼らずにおいては罰則がかかってしまうのだ。家の前の通りの並木のメインテナンスも家の持ち主の責任。家の前の木の枝が葉の重さのために折れて通行人を怪我させれば、その家の持ち主の責任になる。だからといって枝葉を落すだけでもCityに申請て許可を得なくては出来ない。落ち葉の掃除を何週間もしないと、すぐにCityから警告の手紙がくる。
自分の家が近隣の家と同時にコミュニティとして計画された場合。CCR(Covenants, Conditions, Restrictions)が残っている場合もある。家が計画された当初CCRはCityに提出され認可されている。「家の色は赤と緑以外であること」「家の高さは1.5階以上あってはいけない」「屋根の傾斜は当初の設計にあわせること」「車の整備をしないこと」など。中には「アジア人お断り」という項目まである古いCCRもある(今では違法)。
コンドミニアム(マンション)やタウンハウスはCCRとそれにまつわるHOA(Home Owners Association)がある。日本で言う近所組合のようなもの。HOAでCCRの内容の変更をしたり、HOAのFeeを変えたり出来る。あるHOAに建設会社社員が住民として入ってきたが、彼が余りに建設の知識があり、「あれを足せ、これを足せ」とHOAに新しい不必要なスプリンクラーのシステムや外灯などを提案しては無理強いして認可させ、結果的にHOAのFeeが二倍に跳ね上がってしまったなどという話さえある
おまけ3:家の購入の仕方一例
まず、モーゲージ・ブローカーかダイレクト・レンダー(銀行)を見つけ、自分がいくらのローンまで許されるかどうかチェックしなくてはいけない。これはPre-approvalと呼ばれ、Pre-approvalの手紙が無ければ、オファーを売主に出すことが出来ない。Pre-approval は、自分の年収、ローン、クレジット・ヒストリーで決められる。「金利7%、30年固定ローンで$800,000まで」といった具合にPre-approvalの手紙は書かれる。
リアルターを使うかどうかは自分の自由。もしも時間に余裕がなかったり、不動産取引に詳しくない場合など、リアルターを使う。カリフォルニアでは、売り手が売値の3-6%をコミッション・フィーとしてリアルターに払うという不思議なことになっている。つまり、買い手はまったくフィーを払わないで良いということ。言い換えると、リアルターへのフィーは売値に含まれているわけ。人の紹介でリアルターを見つけるケースが多いが、そのリアルターが優れた交渉力を持っているだけが大事なだけでもない。加えて自分の求める条件を満たせる人であることが大事。例えば、「土日も夜遅くまで仕事が出来る」「自分の近くに住んでいる」「E-mailで連絡がとりやすい」「きちんと家購入のスケジュール表をたてられる」「欲しい家のある地域に詳しい」「ローンの手続きも手伝える」など。
家が見つかったら、すぐにオファーを出す。オファーレターは簡単ではない。オファーレターには色々な条件が書き決めるので、もしエージェントが居れば、しっかりと内容確認をすること。特に大事なのは、1)インスペクションで見つかった問題を直すのはどちらの責任か 2)購入を条件なしに取り下げできる期間は何週間か 3)いつまでに購入を終了させなくてはいけないか。不思議に、売り手は「誰」が自分の家に将来住むのかということを非常に気にする。売り手の心を動かすような手紙を書いて一緒に提出することが大事。
売り手からオファーに対する返事が返ってくる。カウンターしてくることもあれば、そのまま受け入れられることも。オファーレターの内容を変えるカウンターもあるので、よくカウンターオファーを読むこと。最終的にカウンターオファーを受け入れた後でも、購入を取り下げることが出来るのがカリフォルニア。オファーレターに決めたContingency Periodの中なら、ペナルティ無しで家購入を取り下げることが出来る。これは通常1週間から3週間程度。Contingency Periodを過ぎても取り下げは可能だが、罰則として売値の3%が持っていかれる(オファーレターの中で利率を決める箇所がある)。
この期間にしなくてはいけないことは、1)家の検査 2)査定。家の検査は特に将来の大きな出費を見つけること。シロアリ被害など、数万ドルの出費になることもある。一番大事な構造体のチェックに加え、屋根の耐久年齢、窓や扉の状態、エアコンの作動状態をプロに見てもらう。通常は売り手が構造体の修理の責任をとるが、「AS-IS」(そのまま)で購入する場合もある。検査の結果、屋根全体の修復が必要な場合などはその修繕費を交渉する必要がある。売り手は、Disclosure Packageを提出する義務もある。Disclosure Packageは、家が洪水や地震の影響が高い土地に位置しているという地域情報から、家にかけられているCCR、昔の検査の結果などが含まれている。
査定を行うのは、レンダーの仕事。例えば、8万ドルの家を買おうとしているのに、もしも銀行が6万ドルの価値しかない、と言えば、銀行は6万ドルまでしか貸してくれない。もしも低く査定されれば、値段交渉の手段として使うべき。高く査定されても喜べない。なぜなら、査定価格に対して税金がかけられるから。
最終的に値段の交渉が終われば、Title Companyを通してEscrowになる。銀行が正式に資金出しをするために、最終ローン書類にサインをする。この書類に目を通すのはとても大事。利率が間違っていたり、レンダーが新しく罰則を足していたり。最終的にTitle CompanyがCountyに取引成立を記録させ、交渉が正式に成立したことになる。
以上