JTPAニュースレターでは、これから「私の一日」と題して、シリーズでシリコンバレー人の日常生活を描いていくことにしました。シリコンバレーに関する様々な情報は日本でも溢れていますが、「そこの暮らす日本人の普段の生活」についての 情報はあまり見つからないのが事実です。このシリーズが最終的にシリコンバレーの日本人達の暮らしをイメージしてもらえるようなコラムになることを望んでいます。
今回は、あるソフトウェアエンジニアの方に匿名で書いていただきました。


エンジニアの私の一日は、割と遅く始まる。夜寝るのが遅いからである。
今朝は、8時半起床。朝早くから働いている人が多いアメリカの企業において、この時間に起床するのは、結構遅いはず。
コーヒーを飲みながら一服。基本的に朝食は食べない。日本で働き始めたときからそうである。
半導体検査システムの製造・販売・サポートをしている私の職場では、アジア人は一般的に遅めに出社(9時半から10時近辺)して、遅く帰る(7時近辺)傾向にあるようである。朝の混雑を回避するためもあるだろうし、アジアとコンタクトするのに夕方から夜にかけて働く事が多い人もいるからであろう。私も一アジア人の域をでない。
会社へは、車で10分―15分程度。今日は朝からカスタマー・サイトへ直接向かう。9時半過ぎに家をでて、10時前にカスタマーサイトへ到着。シリコンバレーは、ほとんどのお客さん先が近いために、車で移動する分には、非常に便利である。そういう意味では、仕事の効率が良いといえる。
私がアプリケーションエンジニアとして担当しているカスタマーは、数ヶ月前に我社の最新システムを導入したのだが、それからこのシステムのアップグレードを頻繁に行っている。このシステムは、このカスタマーのアメリカのデザインサイドのリファレンス・システムであるため、アジアにある工場サイドで新しいソフトやハードが必要になった時に、まずこのシステムの上で全ての動作を確認してから、アジア側に実施することになっているからである。我々のシステム自身もシステムの量産前であるため、ソフトやハードのアップグレードを逐一行っているし、カスタマーの製品の立ち上げも近づいている為、それらの確認作業がここ一ヶ月ほど、休みなく行われている。
アジアの工場サイドでは、数十台、時には百台以上の導入をするから、その前の確認作業はとても重要になる。この確認作業で見つからない故障や不具合などが工場サイドの段階で見つかったら、時間もお金も、簡単に数十倍かかってしまう可能性があるからである。
故障や不具合の切り分けが、場合によってはかなり難しいものである。再現性のあるものは比較的楽だが、時々起こる不具合などは色々なバッググランドがないと泥沼にはまるからやっかいだ。自分が絶対に解き明かすという気概は大事だが、場合によっては早めに手を挙げる潔さも重要になる。カスタマーにとっては時間が全てだからである。お客さんとのやり取りは、このバランス感覚が磨かれるように思えるから好きである。
今日の午前中は、お客さんと、我社のシステムに取り付ける冶具の納入しているベンダーと、その冶具の確認。幾つかの冶具をシステムに取り付けてシステム上のアプリケーションプログラムでチェック。不具合が幾つか見つかり、そのデバッグに時間を費やす。今日はランチを食べてる時間が無さそうな勢い。午後2時からは、我々のサービスエンジニア達にシステムのアップグレードを行ってもらう手はずになっている。それまでに終えないと。。。
最終的に、冶具が悪いことを検証して、持ち帰って直してもらう事で決着がつく。
1時50分、ぎりぎりであった。あらかじめ12時前に、2時を割り込むかもしれないと連絡はしておいたが、時間内に終わってとりあえずほっとした。
ところで、こういう場面は結構な戦いとなる事が多い。各ステークホルダーが自分の都合や思い込みで突っ走りそうになるからである。勢いに任せてカット&トライで片っ端からやっていく気の短い人がいるときは要注意。逆に、時間が幾らあっても足りなくなり、どつぼにはまる事も多々ある。こういう不具合のチェックのアプローチは、仮説をたててから、その後は消去法で一つ一つ可能性をつぶしていくのが一番いい。そして大事なのはその都度、何が起こったのか皆に見えるようにノートに取る。ノートを取る手間がかかるのだが、逐一全員が納得していくから、結果的に速い事がほとんどである。今日はうまく事が運んだ。
午後2時から、我々のサービスエンジニア、およびソフトウェアエンジニアがやってきてアップグレードを始めた。この作業が終わったら確認のテストを始めるので、カスタマーサイトのカフェテリアでサンドイッチを頬張って、すぐ戻る。今日はランチ休み無しである。ちょっと疲れてきた。
そのアップグレード後、テストプログラムを走らせる。
こういう量産システムの評価は、基本的に時間がかかるものであると思う。
この新しいバージョンのソフトウェアとハードウェア・モジュールの評価には、一応一週間の期間が割り当てられている。実際のテストは2日で終わらせる態度でいかないと1週間はあっという間に過ぎ去ってしまう。1日アップグレード、2日で実際のテスト、1日結果解析&ドキュメントのまとめ、一日予備って感じ。しかし、予備が一日というのは何かあった時、結構危険である。ドキュメントの9割は、取り掛かる前のプランニングでやっておくのが理想的。その場合、2日の予備が取れて、途中で何か起きても1-2回はスケジュール内でやり直しが効く。そうそう理想的にはいかないのだけど。
午後4時に会社に帰ってきて、明日のカスタマーとのウィークリー・ミーティングに備えて、社内のミーティングを行う。報告すべき事は終わっているか、カスタマーに新たに伝えるものは何があるかを話す。セールス、マーケティング、サポートエンジニアリング、多いときで8人程度が参加している。大抵、電話会議となる。今日は、5時過ぎまでかかった。1時間以上の会議というのは、アメリカでは長く感じるようになってきた。マネージャーの人達は、会議ばっかりなので、気の毒に思ってしまう。
ようやくメールにゆっくり目を通す。まあ、そんなに急ぎのものは無し。
カスタマー先のプログラミングのチェック。先週末に、微妙に結果に不具合がでていたので気になっていた。我々のシステム起因なのか?ハードウェア、ソフトウェア、カスタマーの製品、色々と可能性を探るが、まだわからず。もう少しはっきりした仮説を立ててから、客先でデバッグが必要である。ちょっと時間のかかりそうな問題かもしれない。
とりあえず、これはおいといて、お客さん向けの技術説明会のシナリオを考える。毎年、カスタマーを集めて開催している会で、今年は私の出番である。これは、頼まれた一ヶ月前から、ちょっとした空き時間にいつも頭の中で練っていて、おおかたの指針は決まっている。が、話したい事がありすぎて、一本のすっきりしたシナリオに落とせるかが、現在の心配どころである。締め切りは来月中旬だが、来週アジア出張であるので、そんなに余裕はない。そろそろ具体的にスライドを書き始めなければいけない。
こういう事を調べるときに、日本語のかなりの情報がWebを通じてとれるという事は画期的である。海外に住んでいる人は、特にそう感じているに違いない。インターネットのこれだけの普及がなければ、私のアメリカでの会社生活はかなり困難があったかもしれない。ちょっとした、言葉の定義や技術情報など、英語で読むのと、日本語で読むのとでは理解の速さが断然違うからである。
8時過ぎ、家に帰る。この時間まで会社に残っている人はさすがにあまりいない。シャワーを浴びて、ビールを一杯。夕食。家では基本的に和食なのだが、食事にお金をかけない私のメニューは味噌汁、ご飯、納豆、漬物など、かなり質素である。シリコンバレーにいる日本人エンジニアは、食べ物にこだわりを持った人が多いのではないかと勝手におもってる。少しは見習いたいような。
ニュース関係のメールは、今日は会社では読んでいる時間はなかったため、家に持ち帰ってざっと読んだ。
夜中のNHKニュースを見た後、寝るのがもったいなく感じて、もっと起きていたいといつも思う。しかし、前回日本に帰ったときに買ってきた「Visual C/C++ビギナー編」をベッドの中で読むと、よく眠れるのを発見した。最近寝る前に読んでいる。結構読み進んでしまったので、今度日本に帰るときは「超ビギナー編」を買わねば。
以上。