大企業のエンジニアからシリコンバレーのベンチャー企業に転職された大島さんは、自らの技術を常に磨き続ける努力をされていました。グローバルな視点に立ち、自分の技術を求めて世界を土俵に転職を決意された経緯、また、日本の大企業とシリコンバレーの企業双方のさまざまな側面をお話していただく事ができました。(インタビュー日:2002年6月18日)

プロファイル

83年東京大学精密機械修士卒業。後日立製作所に入社し、半導体事業部に勤務する。入社5年目に社内留学を利用してビジティングスカラーとしてスタンフォード大学に留学する。課長時代に「部課長レベル人材を海外の教育機関に派遣する社内教育制度」を利用し、University of Michiganで、global leadership programを約40日間受講し、非常に刺激を受けて日本に帰国。その後勤務先の日立製作所内のベンチャー組織が大きな組織と合併することになるのを機に、退社を決意し、Axis Systems, Inc.に転職する。Axis日本支社(アクシスジャパン(株))の立ち上げを終え、昨年よりシリコンバレーの本社に勤務している。

  • http://www.axiscorp.com/

インタビュー

Q: ビジティングスカラーとしてスタンフォード大学に留学した際にアメリカに残りたいと思いましたか?
A: なんとなく、そんな気はしたように思います。日本の研究室と違い、皆がのびのびと研究しているところと、多国からの留学生がいる国際的な環境が気に入っていましたので。仕事も学校もglobalな考え方が自然になっていてよかったと思いました。
Q: 留学中に特に印象に残った出来事があれば教えてください。
A: こちらでは年齢差を考えずに意見をどんどん言います。私は語学の壁もあって、あまり意見を言わずにいたところ、ある人に『なぜ意見を言わないのか?10回意見を言えば、その中の1回くらいはいいことを言うはずで、その1回がチームの向上に貢献するのだから、どんどん意見を言ってほしい』と言われたのがとても印象に残っています。
Q: 長年お勤めになられた会社を退社されたきっかけは何ですか?
A: 退社する前に所属していた部署はベンチャー的な雰囲気があり気に入っていたので、辞めようとは考えていませんでした。しかし、その部署が大きな組織と合併することになり、合併に納得がいかなかったので辞めました。もし、その合併がなければ、まだ前の会社にいたと思います。
Q: 現在の会社への入社の決め手は何でしたか?
A: 作っている製品がいいということ。今の会社の社長を知っていたというのも一因でした。社長には自らメールを出して現在の職に応募しました。
Q: 大島さんの今のお仕事について簡単に説明してください。
A: 今の会社は半導体の設計用のCAD(ソフト)とそのアクセラレータ(ハード)を作っています。クライアントは、50%がアメリカ合衆国、20〜25%が日本、残りがヨーロッパとなっています。私の仕事の半分は日本とのブリッジ役、半分がエンジニアリングです。
Q: 日本の会社ではなく、シリコンバレーの会社に転職なさろうと思われたのは何故でしょうか?
A: 私はCADのエンジニアですから、シリコンバレーに来ないと本当にこの業界を見ることができないと考えたからです。
Q: 実際にこちらの会社に来られる際に大変だったことはありましたか?ビザの問題等を考えると、シリコンバレーでの就職はやはり敷居が高い気がします。
A: こちらの会社が雇ってくれれば、技術者としてのビザを会社が取ってくれますし、ウェブでの応募もあるので、思うほど敷居は高くはないと思います。求職者の技能を会社が求めているかが重要でしょう。それは日本人以外でも同じです。インド人でも、中国人でも関係ありません。外国人があたりまえのシリコンバレーで、国籍の差別をしていてはいい人材を確保できませんから。
Q: シリコンバレーの企業と日本企業とを比較して、日本企業の良い点、悪い点はなんですか?
A: まず、日本企業の人材レベルはとても高いと思います。会社が大きければその分優秀な人も多い。技術力も、社内での教育もハイレベルでしょう。しかし、問題は、その高いレベルの人材をうまく使い切っていない点です。たとえば、昇進するにつれて、会議の準備の仕事などが何故か増していくのですが、時間の無駄と思ったことがしばしばあります。シリコンバレーの会社ではそのようなことはありません。
Q: では、シリコンバレーの企業の良い点、悪い点はなんですか?
A: 良い点としては、組織の情報伝達がフラットで、決断が早いということがあります。日本だと、組織情報伝達は縦になっているので、間違うことは少なくなるかも知れませんが、スピードがなく、決まったときにはもう遅いことがしばしばです。
もうひとつは、責任の所在です。シリコンバレーの企業では、一人一人の責任の及ぶ範囲がはっきりと決まっています。机も仕切られています。


反面、誰がどの責任範囲を持っているかは、該当者以外には分かりづらく、何か聞きたい事がある時は、色々な人に聞かねばならず不便なこともあります。日本だと、全体を把握している人が何人か居て、何かあった時にはその人に聞けばよかった。
また、個人に仕事の責任が所属しているため、仕事のノウハウが会社に蓄積されづらいということもあります。
Q: 実際にシリコンバレーで働かれて、こちらで実感した環境の違いというものはありましたか?
A: 日本だと一般的にはいわゆる大企業に人材が集中していますが、今の会社は小さい企業でありながら人材のレベルが高い。そういう人たちに囲まれて仕事ができるのは嬉しいことです。


生活環境の面では、通勤時間が短いことや、日本的な残業がないということがあります。給料は時間ではなく結果で決まるということもあり、自分で自分の時間を管理している気がします。周囲のアメリカ人も家族を中心に生活しているので、仕事が貯まっていても、夕食時には帰宅して一緒に食事をし、その後自宅で仕事をする人が多く居るように思います。
Q: シリコンバレーでは、学歴が重要だということを聞いた事があるのですが。
A: 確かに、フレッシュマンが仕事に就こうとする際に、学歴で足切りされるようなこともあるようです。しかし、どの学校かというよりも、どの学位を持っているかが重要でしょうし、それも賞味期限5年といったところでしょうか。実際に働き出したら、学歴よりも職歴、実績がものをいうと思います。
Q: 自分の技術をしっかり持つことが重要なのですね。
A: そうですね。技術が重要になってきていると思います。それなのに、今の日本人の中には勤務時間を消化すれば良いと考えている人がまだ多いのではないでしょうか。私の会社も幸いまだ人が増えていますが、それでも実績を上げない人は会社を去っていきます。厳しい世界です。
Q: シリコンバレーで生き残るためには何が重要だと思われますか。
A: 確かな技術を持つこと。しかし、技術だけでもだめで、人とのつながりがとても大切です。
Q: 最後にこれから社会に出る学生に何かメッセージをいただけますか?
A: たとえ会社がつぶれても生き残れる実力をつける努力が大切だとおもいます。また、今日のようなグローバル化した社会の中においては、日本に固執せず、自分のやりたい事ができる場所を探してほしいと思います。

インタビュアー感想 :石川智子

自分の持つスキルを常にブラッシュアップする努力が、自然と身についていらっしゃるという印象でした。長年大企業に勤められてきたにもかかわらず、企業にどっぷりとはまり込むことなくシリコンバレーのベンチャー企業に転職をされたのも、普段から、自分のスキルが生きる場をグローバルな視点で求められていた結果なのだろう、という印象でした。

インタビュアー感想 :石戸奈々子

長年、大企業で勤めた後での転職。いつまでも貪欲に自分のスキルアップを目指すその向上心からは学ぶべきところが多かったです。安定した生活に埋もれることなく、自分で環境を変えられる勇気、を私もいつまでも忘れずにいたい、と感じました。

インタビュアー感想 :池田森人

シリコンバレーにこだわりもせず、勿論日本にこだわりもせず、大変冷静な視点で判断してシリコンバレーを選んでいることが非常に強い人だなと思いました。大島さんのように世界をボーダレスに見ることが自然にできたときに、シリコンバレーの重要性というのが際立ってくるような気がしました。