AcapelはITベンチャーSoftFrontの100%子会社として2000年6月にサンノゼに設立された。SoftFrontは札幌を本社とする総数125名の企業で、年商約10億円の有力ベンチャー。SoftFrontの事業内容は、インターネットを介して音声を伝えるためのVoIP(ボイスオーバーIP)の各種技術開発やシステム構築。アメリカ法人であるAcapelは、SoftFrontのVoIP技術をデファクトスタンダードとするために世界市場へのアプローチを強めるため、札幌発世界標準を目指して設立されたもの。今回のインタビューではAcapelの若いマネジャー3名にお話を伺いました。 (インタビュー日:2002年6月13日)


プロファイル
牧田芳朗
Senior Manager, Technology
1975年11月11日、東京生まれ。1998年6月、UCLA経済学部卒業。1998年7月、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチャ)に入社。そして、2000年8月、Acapel入社。現在、Senior Managerとして、顧客・市場のRequirementを統括しAcapelのVoIP製品の企画、及び製品の方向性/ロードマップの策定に従事。営業・マーケティング活動において、顧客・パートナーに対する技術面でのインターフェースを務める。Acapel以前には、多国籍企業における務改革を目的としたビジネスプロセス・システムの提案、デザイン、導入などに従事。
林 利幸
Manager, Technology
1973年10月9日生まれ。1996年3月、京都大学工学部電気工学科卒。1998年7月、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチャ)入社。2001年1月、Softfront Inc。(Acapel) 入社。現在は技術部門のマネージャーとして、セールス・マーケティング活動における、カスタマー/パートナーに対する技術面でのサポート・製品の企画・管理(将来の方向性および拡張機能等の検討・決定)などをこなす。 Acapel以前には、ITコンサルタントとして、クライアントへの業務改革・改善のためのシステムの提案から実際のシステムのデザイン・インプリメントまで統括的な業務に従事。
Walter Bockl
Director Sales&Marketing
1995年、インディアナ大学卒。1998年1月、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチャ)入社。2000年8月、Softfront Inc。(Acapel) 入社。
インタビュー
Q: 日米両方で働いた経験から、日米の社内カルチャーの違いについてどう感じますか?
A(林): (日本法人のソフトフロントで働いた事はないので)前にいた外資系企業との比較を比べると、上司に対して同じレベルで話ができてオープンです。極端な話、CEOに直接話ができるという点でも組織がフラットで仕事がしやすい。ただ、これはアメリカのカルチャーというだけでなく、スタートアップの特徴だとは思いますが‥‥。
Q: 牧田さんとBocklさんは2000年8月のアカペルのスタートアップから参加されているようですが、そのモチベーションは?
A(牧田): BocklからAcapelの紹介があった時には、まずは、(Acapelのコア技術である)Voice of IPの技術に興味をもちました。そして、シリコンバレーでやるということで、大きなことができそうな印象があったので、前の会社を辞めて移ることを決意しました。
Q: シリコンバレーのほうが大きなことができると思ったのはなぜですか?
A(牧田): 大きな会社にいると日本では若いうちに大きな仕事ができないと感じました。シリコンバレーはスーツも着ないところ。良いアイデアさえあれば、人種、年齢など本質的ではない部分に関係なく真剣に見てくれる。そこが魅力的でした。
A(林): スタートアップと比べて、大きな組織では個人にかかる責任と自分のハンドルできる部分が小さい。スタートアップではどうしても少ない人数でやるので、1人で多くのことをする必要があるので、自分のアイデアでやることが多い。その分、リスクもあるけどチャンスも多いと感じました。
Q: 大きな責任にプレッシャーを感じませんか?
A(牧田): プレッシャーというよりも楽しいですよ。何でも自分で考えて行動できますし、見合うようなチャンスも大きいですし、プレッシャーというよりは楽しくやっていますよ。
A(BOCKL): 若いうちにここのような経験をできるチャンスは少ないと思います。マネジメントということで色々なプロジェクトを運営したり、チームを創ったり、アイデアを実現したりという仕事に触れるということが前の会社では少なかったが、今ではそれが毎日の仕事になっているので、仕事の満足度はかなり高いと思います。5年から10年後に大企業で同じようなポジションに立った時に、ここでの経験が活かせるというのが一番の魅力だと思います。
Q:シリコンバレーにいる方の多くがリスクマネジメントを考えていると聞きますが、皆さんはいかがでしょうか?
A(林): 自分達は特殊なケースだと思います。Acapelは日本法人の100%子会社。自分達が出資しているわけではないので、リスクは普通の会社と代わらないと思います。普通の会社でも解雇される場合もありますし。自分の資金で起業するケースに比べれば、ずっとリスクは小さいと思います。
Q: 言語とかが仕事をする上で問題になることはありますか?
A(林): 他のメンバーのほとんどは米国人。牧田も学生時代から海外にいるので全く問題はないです。一番問題にあるとすれば普通に日本にいた私かもしれませんが、仕事に価値を出せるのは言語だけではないと思います。当然、営業でお客さんと細かいことをやりとりして、細かいことをつめる時などは、現地のスタッフにカバーしてもらったりすることで問題なく仕事こなしていると思っています。
Q:アメリカ人と日本人で一緒に仕事する上で気をつけていることは?
A(牧田): 前の会社にいた時から、外国人が多いプロジェクトで働いた経験がありますが、日本語で話すとちょっと壁を作ってしまうなどということには、たまに気をつけていますね。なるべく、1つのグループとして物を進めていこうと考えています。
Q: 今後もシリコンバレーで仕事をしていきたいと感じますか?
A(BOCKL): ここのメンバーは特殊で、日本で長く仕事をしていました。シリコンバレーは確かに仕事はしやすい場所ですけど、日本でも仕事をしたいし、必要なネットワークはもっている。私はどっちかに偏ることはなく、日本とアメリカ両方で仕事をしていきたい。:
Q: シリコンバレーの悪い点って何がありますか?
A 全員: 一杯ある笑)。遊ぶところがないこと。意外と物価が高い。ずいぶんと下がってきたけど、東京と同じか高いくらい。他にもご飯食べることころは少ない。このオフィスの人はサンフランシスコから通ってきている。週末はサンフランシスコでゆっくり遊んで‥‥やはり、シリコンバレーはビジネスの中心の町ですね。:
Q: ビジスは非常にやりやすいのですね。
A(牧田): 来ている人が中国人、インド人と本当に多様で、日本人ということを意識しません。これはというものがあれば認めてくれるので、すごく仕事をしやすい環境だと思う。まったくつながりがない会社と出会うことで新しい価値が生まれる経験を何度かしました。そのような新しいァリューのクリエーションを面白いと感じました。そこは日本で仕事をしている時には感じなかった。シリコンバレーには新しいものを創る環境があると思います。
Q: そういうアイデアのオープン性はシリコンバレーの特徴ですか?
A(牧田): 馬鹿げたアイデアでも頭から否定はしないと思います。どうやったら良いかと真剣に検討してくれる人が多い。新しいものに対する好奇心、新しいものに対する許容範囲が広い。それが新しいビジネスのドライバーになっていると思う。:
Q: アカペルで働くモチベーションは何ですか?
A(BOCKL): 一番のモチベーションはマネージァーとしてのスキルアップすること。例えば、大企業では時間がかかる。若いうちから色々な角度からのマネジメントの経験があれば、将来的にマネジメントの仕事がきたら、自信をもってできる。
A(牧田): 私の場合もやはりスキルアップ。スキルを身に付けることが一番のモチベーションだと思います。小さな会社なのでどうやったらソフトウェアが売れるのかを真剣に考えないといけない。そういう意味では恵まれた環境です。

A(林): シリコンバレーにいるから、フラットな構成で個人に大きな権限がある会社でもやっていけるのかもしれないですね。成功すれば会社にとってもメリットだし、自分にとってもスキルが身につく。そういう環境があれば場所にはこだわらないが、そういう環境が多くあるのが、シリコンバレーかもしれませんね。
A(BOCKL): でも全くこだわっていない。
Q: 大企業にいた時とAcapelにいる時で仕事の思い入れは変わりましたか?
A(林): 大企業ではほんの一部しかやらない。広げようとしても組織の中での限界がある。例えば、そこができなくても、ダメージが少ないですよね。果たせる役割に限界があるから意気込みがうすくなる傾向にある。
Q: シリコンバレーのこだわりはない?
A(BOCKL): 仕事をする上では便利。歩いて30秒でお客さんがいたりするのは便利ですよね。アメリカでは普通は飛行機。シリコンバレーは小さな東京。有力な会社がシリコンバレーにあるのでネットワーキングのしやすいし、人材は集めやすいでしょうね。エンジニアとか、セールスとかを雇うとか‥ ただ、たまたまここにいる感じです(笑):
Q:シリコンバレーへの思い入れがあるのは、皆さん(26歳〜29歳)よりも年が上の人が多い気がしますが?
A(牧田): 96年のブームになる以前の人は技術に関する人が多かったと聞いています。昔からの人は『シリコンバレーは技術者の天国』といった印象があるようですね。逆にちょっと前は投機的な意味が多かったと思います。とにかく、シリコンバレーで大もうけしようという感じで‥。
Q: 皆さんは第三世代という感じでしょうか?
A(牧田): そうですね。波に乗り遅れましたね。2年位前にきていれば、お金入ったかも(笑)
Q: 皆さんのように若い世代の日本人はシリコンバレーで働いていますか?
A(牧田): 来る人は減っていると思いますよ。当然、日本から来る人もへっている。一時期はスタートアップがブームだったが、今は逆に少なくなっていますよ。:
Q: 海外でチャレンジするためのこういうスキルがあれば良いのではというアドバイスを頂きたいのですか?
A(牧田): 技術があれば良い。
A(林) ただ、日本でスタートアップに入るのと差はないと思いますよ。特別にここだから必要なものはないと思います。差別とかはないので障壁が一番低いのではないでしょうか?
Q:シリコンバレーになじめない人
A(林): 私達もなじめませんね(笑)ただ、ここでは時間に関係なく、成果を問われます。頑張ったプロセスよりも成果を評価するというのになれていない人はなじめないかもしれませんね。
Q: そのような話もシリコンバレー特有というよりはアメリカ特有と印象があるのですが‥
A(牧田): シリコンバレーには個人的な思い入れとかはありませんが、仕事ということを考えればシリコンバレーが一番良いと考えていますよ。
ありがとうございました。
インタビュアー感想 :大野一樹
自らのキャリアアップへの明確な意志には敬意を感じるとともに、生活も楽しみたいという感覚には共感を覚えました。また、本当に仕事の楽しんでいる印象を受けましたが、シリコンバレーという土地が作っているのか?彼らのような人柄の人がシリコンバレーにいるのか?興味がつきないところです。
インタビュアー感想 :石戸奈々子
仕事の選択の仕方、仕事場の選択の仕方に共感を覚えました。自分のやりたいことをする、楽しみながらキャリアアップをする、自分のやりたいことが実現できる場所を選択する、すべてが当たり前のことのようで皆がなかなか実行できない生き方のように思います。それをさらっとこなしている彼らに尊敬の念を覚えました。人生の楽しみ方を教えていただいた気がします。