個人の能力が非常に重要な意味を持つシリコンバレーで、個人をサポートする仕組みやどのように個人が重要なのかを話していただきました。またいくつもの会社を経験して感じたこともお聞きしました。(インタビュー日:2002年6月14日)

プロファイル

早稲田大学修士課程の機械工学科でロボティクスやコンピュータ制御を学ぶ。一方、ソフトウェア開発のアルバイトを通して、ソフトウェア開発に関する実践的経験を積む。卒業後、中部電力に 入社するが一年後に退社、三菱総合研究所に転職。二年後、ロータリー財団の奨学金を受けStanford大学に留学する。Stanfordでの経験からアメリカ人と一緒に仕事をする事に興味を持ち、卒業後Apple Computer社に就職。3年間の勤務後、Stanford留学中にインターンをしたバイオインフォマティクス関連のベンチャー会社に移る。会社がCelera Genomics社に買収されたためCeleraへ。その後、Stanford時代の友人と携帯機器向けのサーバーミドルウェアのソフトウェア会社を起業するが、二度目の増資ができず18カ月後に解散する。その後はフリーランスでバイオインフォマティクスの分野を中心とする技術コンサルタント業務を行っている。

インタビュー

Q: ご自身の簡単なご略歴を教えてください。
A:早稲田大学修士課程の機械工学科でロボティクスやコンピュータ制御を学ぶ。一方、ソフトウェア開発のアルバイトを通して、ソフトウェア開発に関する実践的経験を積む。卒業後、中部電力に 入社するが一年後に退社、三菱総合研究所に転職。二年後、ロータリー財団の奨学金を受けStanford大学に留学する。Stanfordでの経験からアメリカ人と一緒に仕事をする事に興味を持ち、卒業後Apple Computer社に就職。3年間の勤務後、Stanford留学中にインターンをしたバイオインフォマティクス関連のベンチャー会社に移る。会社がCelera Genomics社に買収されたためCeleraへ。その後、Stanford時代の友人と携帯機器向けのサーバーミドルウェアのソフトウェア会社を起業するが、二度目の増資ができず18カ月後に解散する。その後はフリーランスでバイオインフォマティクスの分野を中心とする技術コンサルタント業務を行っている。

Q: アメリカに行く事になったきっかけは何ですか?
A: 学生時代にはソフトウェアの開発の仕事を含めて、やれる事は全てやったという感触がありました。就職の際には安定したところがいいかと実家に近い電力会社で働き始めたのですが、ルーティーンワークが自分には合わないと感じて一年後に辞めました。その時に『人生は長くない、どうせ失敗しても痛い思いするのも短い間だけ。やりたい事をやろう』という強い決意をしました。一方、学生の時からアメリカには何らかの形で行きたいと思っていましたから、アメリカに行くことをより強く意識しました。

Q: Stanford大学時代に払った学費、生活費はいくら位ですか?
A: Stanford大学はクォータ制をとっていて、一年の授業は三か月ずつの学期(クォータ)に分割されています。出席できる教科の数がかなり減るために夏のクォータは多くの学生が授業を取っていませんから、通常は3クォータが一年分の授業と考えられます。

留学当時(1992年)、工学部では3クォータの学費がおよそ16,500ドル、生活費が9,500ドルくらいかかりました。夏のクォータも出席したとするとそれぞれ、22,000ドル、12,500ドルとなります。それで、1年目はロータリー財団から奨学金を3クォータ分(2〜3万ドル)もらったのと、夏期のインターンシップの賃金から夏の1クォータ分〔60万円くらい〕を捻出して過ごしました。

2年目はRA(research assistant)としてある教授の研究の手伝いをすることにより学費は免除してもらうことができました。加えて、1カ月当り1,000ドル程度の生活費をもらっていたので、ほとんどの経費はRAによってカバーされていました。ただし、RAの仕事をする負担も大きく、卒業するのに1クォータ余分に必要でした。結局、自分で払ったのは3年目に入ってしまった最後のクォータのみでした。

Q:Stanford大学の感想は?
A: 1年目は結構辛かったですね。というのは優秀な学生が皆勉強していますから。日本では周りは勉強していないからちょっと勉強すればそれなりの成績は取れましたけど、Stanfordでは違いました。

しかも最初は効率の良い勉強の仕方が分からなくて、ものすごく頑張ってもあまり成果が出なかったのです。2年目になると一通り経験したので状況は大分変わりましたが。それにしてもアメリカの大学での競争の激しさに驚かされました。

Q: 働いていた三菱総研からも留学費用を出すと言われたのに断ったのは何故ですか?
A: ひもつきは嫌だったんです。その時はこっちに残ろうとまでは思っていませんでしたが、行って帰ってきたら自分の考え方も随分変わってしまうかもしれない。その時にはまた別のことがやりたくなるでしょう。後で高いものについたら嫌だと思ったからですね。その時点ではすでにロータリー財団からの奨学金も決まっていたわけですし。

Q: 数々の企業を経験して感じた事は何ですか?
A: 今までのキャリアを通して、経営危機、買収、急成長など、多くの変化を経験して来ました。特に、一つの会社が不調を起こしていくプロセス、そして不調から好調へと変化するプロセスを二度も経験しました。

会社というのはエンジニアなどの社員が全く変わらなかったとしても、経営陣が変わって理にかなったプランを実行すれば、すぐに儲けられるようになります。逆に、実行するようになるとると実行するようになるとると実行するようになるとるとそうでないプランを実行するようになると、どんなにお金があってもあっという間に全て無駄遣いしてしまうものです。

経営というのは私が考えていたよりは実はとても論理的なもので、短期的にはいろいろあろうとも長期的には必ず論理的な判断が成功につながると信じます。

Q: 今の仕事について教えて下さい。
A: 今はフリーでバイオインフォマティクス関連企業を中心として、技術コンサルタントをやっています。バイオインフォマティクスというのはバイオテクノロジとITという全く異種の領域の融合です。そのために専門家というのはほとんどいないわけです。放っておくと、それらの企業の中でも、その溝が顕著になり活動の大きな妨げとなります。その溝を埋めるというニーズを見出してコンサルタントをしています。

Q: フリーで不安はありませんか?
A: 多少はありますけど、ここでは社会全体の仕組みとして、フリーランスや中小企業の個人が自分の力を発揮することをサポートしているからそれほど感じません。個人が重要な社会ですから。その人が競争力のある価値を提供できるということが重要なことだと思います。逆にそうでなければ、大企業に勤めていても不安があります。

Q: 会社に頼らないでいけるのはどうしてですか?
A: 会社というのはたくさんの人の思惑の塊です。環境や誰がマネージメントをするかによって性格が大きく変化してしまうので、大きい組織であるがゆえに不安定で信用がおけないところがあります。それより個人的なつながりのある個々の人間の方がより信用がおけると考えられています。また、そうした個人の信用に基づいて仕事を依頼するということも一般的です。

Q: サポートする仕組みとはどのようなものですか?
A: 本当に役に立つNPOが社会の中に数多く存在しています。ある業界で起こっている問題点やその解決方法をシェアし合うフォーラムなどはその一例です。そうした組織のターゲットは全部個人なんです。変化が激しくて信用のおけない組織には頼れない、個々人のキャリアの安定性を増すためにはこうしたNPO活動が貴重な存在になります。そして、それを必要と思った人が必要な団体を設立、運営しています。その必要性がなくなれば、自然に消滅していきます。私もMIT-Stanford Venture LabやJTPAなどに参加しています。

Q: 社会のシステムとして日本の特徴は?
A: 日本は安定した社会を目指して、非常に堅い社会システムを確立してきました。しかし、これは常に変化し続ける自然の摂理に反していると思います。多大な努力によって築き上げられたことは凄いと思いますが、現在、そのシステムの基礎が地殻変動によって揺り動かされています。そこで、変化に対応できる柔軟性の高いシステムが求められているのでしょう。

Q: 何故シリコンバレーで活動をなさっているのですか?
A: バイオインフォマティクスはバイオテクノロジ、IT、数学等の複合分野です。ここはそうした様々な専門家を容易に集めることができる場所なのです。東海岸だともっと個々の専門の枠が強固だし、人材の流動性も低い。ただ、これからはサンディエゴ、オースティンなどの地域も盛り上がっていくでしょう。シリコンバレーの物価が高いので、人や会社がそういう土地に流出しています。一方、長期的には通信技術の発達によって、昔ほど場所に依存しないようになっていくでしょう。遠くに住んで、必要なときだけ飛行機で通勤する生活スタイルなどもすでに可能になってきています。

Q: スタートアップした理由は?
A: 私はエンジニアとしてやってきましたが、人間には強い興味があります。会社というシステムが他の機械的システムと違うのは、人間というやっかいな要素を含んでいるということです。その人間を含めたシステムである会社をデザインしてみたかったんです。多くの企業に勤めましたが、最後は実際に自分でやってみないと分からないだろうと思ったからですね。またやってみたいと思いますが、次は他のスタートアップ方法を模索してみたいです。

Q: 社会に製品を出す事が喜びとなっているのですか?
A: それはエンジニアとしてはもちろんです。ただ、製品を出す事は今までの企業で経験してきたから、むしろエンジニアの域では経験し得ないことを知りたかったんです。

Q:スタートアップについて詳しく教えて下さい。
A: 一番重要なのは効率的に機能するコアチームを作る事でしょう。まず、候補者を一緒にして、目標を与えてあれこれ議論したり、周りに話を聞きに行ったりといった仕事を進めます。するとそのチームに合わない人は抜けて、うまく核となる集団ができていきます。このチームはなるべく小さい方が良いですね。大きいと結束が弱まりますから。そのコアチームのメンバーはお互いに違う点をカバーしあい、それぞれの領域に責任を持てる専門家でなければなりません。そして、このコアチームを中心として、後からメンバーを増やしていけば良いわけです。

Q: 何故バイオインフォマティクスをライフワークとして選んだのですか?
A: 昔は生物の世界は嫌いでした。あまり統一的な理論や枠組みを持っているように見えなかったんです。でも、バイオインフォマティクスがコンピュータという道具を使って、その大きな枠組みを探り、理解しようとしてることに気づきました。計算機科学者としては、自然がデザインした洗練されたシステムの探求にはやりがいがありますね。また、逆にその考え方をコンピュータの世界にフィードバックできる可能性もあるかもしれません。とにかく、この世界はまだ始まったばかりですから。