IMCA AmericaのManaging Director & CEOである立野智之氏に
「日本人として仕事を捜す」という観点から全般的にシリコンバレーの雇用状況を語って頂きました。当日使われたプレゼンテーションのPDFファイルはこちらからダウンロード下さい。
1. シリコンバレーの失業率7.6%は数字のマジック? (スライド3)
2. シリコンバレーの雇用状況。(スライド4)
1995年からのベンチャーに対する投資額を見ると、2001年、2002年は1999年、2000年のバブルの頃と比較すれば随分少ないが、1995年当時と比較すればそれほど悪くない。バブルの頃を抜きにして、1995年、1996年、1997年から自然に増加する線を引いていくと今がそれほど悪いわけではない、ということで個人的には悲観していない。
1999年と2000年の「バブル増加分」をオレンジ色の部分とすると、これがトータル300億ドルとなる。資金調達のほとんどは人件費に使われる。平均的には、社員一人の年間コストが大体30万ドル。一方で、シリコンバレーの求職者数は約20万人。このうちの半分の10万人がハイテク関係とすると、10万人かける30万ドルが300億ドル、とちょうどオレンジ色の部分の額と一致する。かなりこじつけではありますが。いずれにせよ シリコンバレーがかなりつらい状況にあるのは間違いありません。
3. どのようなプロフェッションの人がHOTか?(スライド5)
バブルの時にはスタンフォード大学のMBAを出てインスタントCEO(最高経営責任者)という方々はかなりいたが、現在そのような状況ではない。
この表はどのようなポジションがホットかというものを現している。セールスがインパクトを受けていて「曇り」、バック・オフィス(ファイナンスやアドミニストレーション)が「雨」、ビジネス・デベロップメント(戦略的セールスなど、「かっこいい」セールス)は「晴れ」で一番焦点が当たっている、マーケティング(特に、Marketing Communicationsと呼ばれている広告をうったり展示会ををやったりという部分)が厳しく「雨」、エンジニアリング「晴れのち曇り」、R&Dはもともと「曇り」、CEOのところは前年と比べると4割減くらいで「雨」。「雨」の職種の求人は前年比4割減。「曇り」は前年と同じくらい。「晴れ」のところはプラス10%くらい。
4. どのような会社が求人しているのか?(スライド6)
今年1年に投資を受けた会社の一覧表が出ているが、Information Technology (IT)が32%、ソフトウェアが31%、バイオ・テクノロジーが18%、ヘルス・ケアが10%、テレコミュニケーションが9%、これは非常に大事な資料で、投資された金額の7割から8割が人件費に消える。
IMCAのように人材のビジネスをしていると人件費にいくらお金があてられるかを見ることが商売のネタになる。この時期に投資を受けられる会社、特にEarly stage(初期段階)の会社には非常に良い技術があるので将来必ず成長していくだろうという見方をしている。さらに、この時期に3rd round, 4th round(優先株シリーズC、D)のお金をもらえる会社は生きのびていくだろうと見ている。それ以外の会社はどんどん死んでいくだろう。
実際に仕事を捜す人は、「2千万ドルくらいの資金調達をした会社は、これから積極的に人を採用していく会社」として見るといいだろう。資金調達状況については、http://www.ipo.comで無料で見ることができる。
5. どのような人材がポジションを勝ち得ているか?(スライド7)
実力に裏付けられたコネクションがある方、過去に一緒にいい仕事やプロジェクトをしたことがある方が非常に良い転職が出来ている。 また、今までは求人するスペックのうち、100点満点のうち60点くらい満たしていればいいという会社が多かったが、現在では、100点満点の求人スペックに90点以上フィットしないとオファーが出ない。それだけ厳しい状況になっている。
キャリア・パスに関しては、常に一貫したロジックのあるキャリア・パスが重要。つまり、あるときはセールス、あるときはエンジニアリング、あるときはマーケティングというように飛んでしまっていると、見た瞬間に履歴書にロジックがないのが明白。ところが、同じように、セールス、エンジニアリング、マーケティングとやっている人も、履歴書の書き方によっては、ロジックのあるように見せることもできる。自分でキャリア・パスを決めた場合もあれば、会社に振り回されて勝手にキャリア・パスができた場合もあると思うが、とにかく履歴書を書くとき、あるいは自分自身をプレゼンテーションする時に、見る人間にとってロジカルな経歴にするのが第一条件。
日本で働いてきた日本人、特に大企業の方の履歴書を見るとがっかりすることが多い。長い間、同じところで同じようなことをしてきていて、いざアメリカに来たいと思った頃には、既に手遅れで何もお手伝い出来ない状況になっていることがある。
6. 日本人にとっての米国内採用ニーズの傾向(スライド8)
ホットなのは、Business Development, Japanという、日本法人を作る前の状態での日本での事業開発。特に、エンジニアリングのバックグランドがあり、日本の市場を良く知っている方が求められている。また、日本国内で、Country Manager、Pre-SalesやPost-Salesというサービス・センター的なポジションもほっと。アメリカでの経験があると、日本へ戻った時の価値が上がる。それから、バイオ・テクノロジーやヘルス・ケアはホットで、バイオテックで日本の市場を開拓できる方は捜せないくらいに人がいない。求人企業に対して人材の数が少ない場所。
日系ハイテク企業に関しては、Head of Salesという職種での求人がある。例えばNational Sales Managerとして全米でソフトウェアなりハードウェアなり売るのが仕事。しかし、残念ながら日本人に対する期待は非常に低い。ここにはアメリカ人のプロを雇いたいということ。次は駐在員のReplacement(代わりになる方)だが、これは駐在員はローカル社員に比べて2.5倍から3倍のコストがかかってしまうのでここを削減するというのが動機。しかし、Replaceとしては、日本人ではなくアメリカ人が好まれる。「自分の部下にアメリカ人のローカルの人が並んでいるとカッコいい」という歪んだ希望があって、なかなかここにも日本人が入っていくのは難しい。
7. 最近のプロジェクト(スライド9、10)
ここ6ヶ月関わっている人材探しのプロジェクト。米国内で受けたプロジェクトで、ソフトウェア・企業がいくつか入っているが、こういったところは現在の環境下でもいまだ動いている。
今から日本に進出しようというベンチャーがいくつかあるが、これは日本のカントリー・マネジャーだったり、営業のトップといったような日本国内が職場の仕事。一番期待しているのは、日本のベンチャーの米国進出。ビジネス・プラン、組織構築、そのために必要な人材などをアドバイスしながら、Country ManagerとVice President2人、計3人のチームを私どもで探し出すというプロジェクトを2つ手掛けた。
8. キャリア・プラニングに関するアドバイス(スライド11)
CEO(最高経営責任者)になるのが一番カッコいいという意味ではないが、どんな職種からでもCEOになれるわけではなく、それぞれに天井が存在する。Back Officeをしていれば最終的なパスはCFOであり、CEOに行くパスは基本的にはない。R&DはCTOでおしまい。それはそれで幸せなキャリアではあるが。 CEOは、実はエンジニアリング、マーケティング、ビジネス・ディベロップメントという3つの箱を経験しているケースが多い。セールスの経験だけだと、非常にCash DrivenなのでVice President of Salesが天井。キャリア・パスには、会社の組織上の天井があるので、一体自分がどこにいて、何になりたいのか、これをベースに考えた方がいい。
絶対ありえないのがBack Officeの人がセールスに移ること。これは実は体の良い首みたいなもの。昨日まで会計をしていた人に営業をやりなさいというのは辞めて下さいというのと同じ。逆に営業の人にBack Officeに入れというのも同じこと。こうしたことをベースにキャリアをどこで積むのかを考えたほうがいい。繰り返しになるが、一貫したロジックのあるキャリア・プラニングを是非考えて欲しい。アドバイスとしては、毎年履歴書を書きかえてみて、一貫性があるかどうか反省をし、来年どうしようかと考えるのがよい。
1万ドル=1ヶ月のルールというのは、例えば、年収が6万ドルの方は仕事を変えたいと思った時点から次の職を得るまでにだいたい6ヶ月、10万ドルの給料の方は10ヶ月、12万ドルの給料の方は12ヶ月かかる、という現実的なルールのこと。
Perception vs. Realityに関しては、いくつかポイントがある。日本から駐在員として来て、あたかもアメリカのマーケットを知ってると勘違いをし、シリコンバレーに残って仕事をしたいという方には、基本的には仕事がない。逆に「日本の市場を良く知っているから、日本市場に向く製品は何なのか、マーケティングのしかけはどうあるべきか、ビジネス・デベロップメントをどのように仕掛けていくかを、アメリカにいながら担当する」という人には潜在価値がある。
もちろん、こちらのアメリカ人の方と、例えば、スタンフォード大学MBA卒と勝負が出来る方もいると思うが、多くの方はもう一度良く考えて、会社の求人側が必要としているのは何なのかということを良く考えてから行動を取られるのが良いと思う。
質問: 「COOとは何か?」
答え: 「ベンチャーでは、CEOのお客様は投資家であり、投資家に対してきちんとプレゼンテーションをしていくのが仕事。次に大事なのは顧客。こうした、マーケットと投資家向けにかなりの時間を使うのがCEO。社内向けの仕事はCOOがする。CEOになる前のINTERIMのポジションということもあるし、変なときにはCFOがCOOを兼務することがある。先の絵の「箱」のどこからでも行けるのがCOOだが、COOからCEOというのは少なく、外からCEOを連れて来る場合が多い。COOは中向きの仕事、 CEOは外向きの仕事なので、求められている能力が違うというように考えて欲しい。」
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