今回は「日本語にできない英語」「英語にできない日本語」です。表現する言葉がないということは、その概念自体がないということ。ですから、二つの言語を比較して直訳が難しい言葉を捜していくことで、英語を母国語とする人と日本語を母国語とする人との思考方法の差を探ることができ、なかなか興味深い「雑学的・言語による文化比較」ともなりえます。今回はこのテーマで編集部座談会を行ってみました。


■日本語にできない英語
「仕事がらみの人間関係に関することって、訳すのが難しい言葉が多いね」
「例えば、mentorとかcoachなんか、イマイチぴったりする言葉がないよね。先輩じゃないし、上司でも先生でもない。メンターとかコーチとしか言いようがないなぁ」
「mentoringを受ける側のprotegeも訳しにくいね。単なる後輩じゃないし、お気に入りというのとは違う。会社組織が決めた役職の中での関係じゃなくて、個人が自ら相手を選び取る『先達』『秘蔵っ子』というのが日本ではあんまりないからかな」
「こっちの会社だと、mentorになってもらいたい人に狙いを定めて、自ら『私のmentorになってください』とアプローチしたりしてるよね」
「日本だと、そもそも年長者は年下の人に対して、頼まれなくてもいろいろアドバイスをするのが当たり前だけど、こちらは敢えて求めないと年齢とか地位に関わらず仕事に直接関係ない忠告とか教訓って言ってもらえないからじゃないかな」
「そうか、日本はもともと多くの人間関係がmentor/protege的になっているから、敢えて名前をつけて言うまでもないってことか・・・」
「integrityっていうのはどう」
「ああ、それ難しいんだ・・誠意があるって普段訳しているけど」
「うーん、それちょっと違うよね」
「いつでも一貫性を持った正しいことをする、裏表がない、みたいな感じ。二枚舌じゃない、っていうのかな。」
「何か深い精神性をもった正しい人、という感じだね」
「似た系統で、fairってのも日本語にならない」
「この辺は西洋哲学的なにおいがするなぁ」
「competenceってカタカナでコンペテンスになってるね」
「そうそう、明らかに日本語にないからね。競合優位性、っていっても、なんだかあんまりぴんと来ないよね」
「そもそも、日本的には競争するってこと自体、あんまり前面に出すことが好まれていないものねぇ・・・・。」
「『He’s competent』みたいな感じで人を形容する言葉としてよく使うけど、それは『競合優位性がある』なんていう複雑な意味じゃなくて、『仕事の場で有能』っていう意味だね」
■英語にできない日本語
「お世話になります」
「ああ、それ困るよね。Thank you for your cooperation in advanceかな。でもなんかちょっと押し付けがましい」
「よろしくおねがいします」
「これも同じ。直訳したらPlease treat me wellかPlease do it wellのどっちかかな?でも、そんなこと言ったら相手がびっくりすると思うけど。ケースバイケースで適当な表現を使うしかない」
「恐縮する」
「うーん、これは全く持って概念がないような。へりくだった言い回しは英語になりにくいね。」
「一般的に、へりくだった謙遜表現より、相手に対する感謝を直接的に表す方が普通かな。単にThank youとかね」
「会社内のポジションに関する言葉は英語にしにくい。総合職なんてそうだよね」
「professionalが一番近いかな。management trackというと、もっと短期間にどんどん出世するパスって感じ。」
「営業部門」
「salesっていうと、お客のところに出かけてひたすら営業をかけている、いわゆる日本語で言う営業マン。日本の銀行とか商社が、営業部門、管理部門という風に分ける時の『営業』は訳が難しい。」
「front line of businessっていう長い表現かな。あんまり聞かないけど」
「要は日本の『営業部門』というのが、こっちの会社だとmarketing, sales, planningなんかに分割されて専門化されているんだよね。日本は一人の人が全部やる傾向が強い」