キャリアパスというものを非常に意識してご自身の働く場所を選んできた原さんの、それぞれの会社で得た事や感じた事などをお話ししていただきました。これからキャリアパスを考える人にとってのRole Modelとなるお話です。(インタビュー日:2002年6月17日)
プロファイル
慶応経済学部を卒業後、住友商事に就職し事業投資などのファイナンス関連の業務に携わる。その間にコロンビア大学でMBAを取得。8年半を住友商事で過ごした後、孫正義氏にリクルーティングされソフトバンクに転職、3年半ITに特化した海外事業提携に従事。さらに、米国企業でキャリアを積みたいと考え、SGI(シリコングラフィックス)の日本人に転職し、実績を認められてシリコンバレーの本社へ社内異動。2000年9月に現在のGAP(Global Alliance Partners, Inc)を起業する。
- http://www.ga-partners.com/
インタビュー
Q: アメリカに留学した感想は?
A: これは違うなと思いました。日本の大企業にこのまま20年いてやっていくのが本当に良いのか考えましたね。特に1年と2年の間にsummer jobとしてある投資銀行で6週間働いたのですが、その時、アメリカビジネスのダイナミズムを感じました。実力があれば若いうちから実力を発揮できる場というのを目の当たりにしたんです。
Q: それに対して日本の印象はどうでしたか?
A: 帰国後、日本はちょうどバブル崩壊時期だったのですが、日本の社会は今よりもっとconservativeでした。日本型のやりかたは完璧だという考えがあってなかなか会社も大きく変わる雰囲気なかったので、自分の能力をもっと生かせる仕事がしたくなりました。
Q: ソフトバンクに転職した理由は?
A: 孫正義さんにリクルートされました。その頃はまだITバブルじゃない時期で、これからソフトバンクが海外展開をする要員を探していて、その1人でした。仕事内容は海外事業提携です。出始めた頃のシスコシステム、ノベルネットワーク等、アメリカの会社を連れてきてジョイントベンチャーを組んだり、逆にアメリカの会社を買収したりとか。
Q: SGIに転職した理由は?
A: 今度はアメリカ側のテクノロジーを生み出す会社でキャリアを積みたいと考えました。当時はSGIがシリコンバレーで一番伸びている会社でしたね。日本でビジネスプランニングマネージングをしていたのですが、シリコンバレーの本社に行って、本当の意味でアメリカのハイテク会社を経験したいと思いました。だからアジアのヘッドクォーターをシリコンバレーに作る企画を立ち上げて、自分がマネージャーとして始めたんです。仕事内容はアメリカ本社と日本アジアの各支社をスムーズに結ぶ掛け橋です。
Q: そこで感じたことは?
A: シリコンバレーに異動したとはいうものの、最初はアジアからの派遣、駐在員という事でお客さんだったんですよ。だから、されに「アジア子会社からの派遣」という立場から、「本社雇用」という立場に切り替えて、本社にいる他の人たちと対等に勝負したいと思い、実際に働きかけてそうしました。そんなことをしながら、スピード、クオリティ、比較にならない位のテクノロジーの変化、ベンチャービジネスに対するインフラの違いを肌で感じました。シリコンバレーの人がどう動くか、どういうモチベーションで動いているかが分かりました。
Q: 原さんが起業されたGAP(Global Alliance Partners, Inc)の紹介をして下さい。
A: 日本・アジア・アメリカ、環太平洋、それぞれにルートがあってビジネスが展開し、国境を越えたボーダレスなコラボレーションが存在しますよね。しかし、そこにはギャップがあります。例えば、日本はブロードバンドのインフラはあるのにテクノロジーがないとかアメリカはその逆だとか。中国は今は製造力、低価格で製造できる事が重要視されていますが、将来はコンシューママーケットとしての価値が大きいです。人が絡むので言葉も含めビジネスモデルのずれがあり、それでうまくいかない事があります。そのような環太平洋間のマーケットのギャップを埋めるインテリジェントなエージェントが必要なのではないか、というのがコンセプトです。大企業は人材が豊富なのでいいのですが、ベンチャー、スタートアップには無理です。自分の技術をどこにどういう形でアピールし、交渉、アプローチすれば良いのか、どの部分を改良して、あるいはチューニングしたら良いのかをサポートしたり、逆にこういうテクノロジーが欲しいというのがあれば我々のネットワークから捜しだします。あとは日米のVC、投資家に呼びかけファンドレイジングのお手伝い。知名度を上げるためのマーケティングプロモーションもします。
Q: シリコンバレーでスタートアップのプロセス、困難、日本と比較、やりやすさはどうですか。
A: シリコンバレーで会社を作るのは日本より簡単ですよ。資本金の制限が少ないですし。会社を作り伸ばしていくインフラがしっかりしているので、ネットワークがあれば日本よりずっとハードルは低いと思います。
Q: 不安はありませんでしたか?
A: 殆ど大企業で働いていたので、独立して会社を作るのは、ある意味崖から飛び降りる気持ちでした。面白いのはやってみるとサポートしてくれる人が多いんですよ。日本だとほら、大企業辞めてスタートアップする人をサポートする雰囲気はなく、どうしちゃったんだろう、と思われますよね。どんなに良いアイデアを持っていても、家を担保にしなければならないとかで非常にハードルが高いんです。
Q: スタートアップしようと思って準備を始めてから実際できるまでの期間は?
A: 最初はインターネット関係のビジネスモデルで、それから現在のモデルに変えたのですが、トータルで1年位です。
Q: ビジネスモデルを変えたというのは?
A: 当時、インターネットバブルで自分なりのビジネスプランを書いて、いくつか日本の商社もお金を出してくれそうなところまでいきました。でもよく考えてみると、無理があるんです。一番良い時期だったらお金も集まったと思いますが、長い目で見ると本当にきちんと利益が出て、うまくいく確率は極めて低いと自分で判断しました。実際、熱に浮かれてばぁっとやったのが今は淘汰されて散々な目にあっていますよね。しかもそれを言ってくれるシニアの人がいました。
シリコンバレーで一番になるための、他の人が持っていないスキルは何だ?と考えました。そこで今までの経歴から環太平洋間のビジネスムーブメントをアウトソースする事が思いつきました。それはアメリカ人だけではできないですからね。最初は自分達のバリューを出せる所からスタートしようと考えたんです。
Q: シリコンバレーで起業すにあたって感じた事はなんですか?
A: シリコンバレーは面白いことに、足りないものは借りてくる社会なんです。社長もCFOもレンタル。フルタイムでは雇えない時期は限定したfunctionはアウトソースして、コアな技術開発だけに専念するんです。しかしインターナショナルにビジネス能力がある人を雇ってくる事は結構大変でお金もかかりますし、知らない人ですとその人が適切な人か分からないですよね。だからうちのモデルは受け入れ易いのだと思います。win-winの関係です。
Q: タートアップしようと思ったモチベーションは?
A: 日本にいたらハードルの高さでやらなかったと思いますが、自分の中では決めていました。今まで、3種類異なる経験してきたじゃないですか、日米の大小企業を。一通り経験したと思ったので、次は自分でやるしかないと考えたんです。でも最初は自分で自分の給料を払う事は大変でしたね。それが慣れてくると自由ですよ、うるさい上司もいないですし。その分自己責任を大きいですし、今は社員も生活できるようにして、彼らのモチベーションも上げなきゃならないです。
Q: 日米、大小と違う種類の会社に移ったのは意識してですか?
A: 住友商事に入ったときは、海外と勝負できるかな、と寄らば大樹の陰的発想でしたけど残りの2つは意識しました。最終的なキャリアパスをどういう風に組んでいくか、そのためにどういう能力が自分には必要かを考えた結果です。
Q: そのようなキャリアを経て得るものはそれぞれ違いますか?
A: 孫さんと緊密に仕事したのも大きいですが、一番有意義だったのはシリコンバレーに来てからですね。独立してから1年半の密度は10年分くらいあったのじゃないかなと思います。というのは全部自分でやらなければならないでしょ?経営っていう意味でも、ネットワークの意味でも。
Q: やはりネットワークが大事ですか?
A: ここで一番重要なのはネットワークです。よく日本だと交友社会だとか言われていますが、ここでも物凄くあるんですよ。日本以上にあるかもしれないです。ただ学閥とかじゃなくて職場閥なんですよ。
成功した人がもう一度やる時はまた同じ仲間とやります、勿論広がっていきますけど。そういうコアな人脈、ネットワークが大事なんです。日本は会社の名刺を背負っていますよね、こっちではso what?と言われますよ。個人がどういうバックグラウンド、バリューを持っていてどういうネットワークを築いてきたかが重要なんです。
Q: 原さんのネットワークのなかで一番大きいのはSGIの物ですか?
A: そうですね。ただネットワークっていうのは多角的に作らなくてはなりません。まず1番大事なのは会社でのネットワークです。伸びている会社には優秀な人が集まるので、そういう人たちと緊密に仕事をして、しかも認められる事が大事です。ただ知っているだけではなくて、あいつに仕事を頼めばなんとかなると評価されれば、その中でも優秀な人の人脈ができます、類は類を呼ぶという事ですね。更に3年くらいするとそれぞれがシリコンバレー内にちらばります。その人達が新しくスタートアップをしたりVCになったり大企業の幹部になったりすると、今まで一つの部署で働いていた人達が数年後にはものすごいネットワークとなるんです。
もう一つは社会のコミュニティですね。例えば子供の学校、ボランティアとかバーベキュー、ボーイスカウト、ベースボールクラブ、教会でも別の人脈ができます。仕事を離れて付き合うから仲良くなりやすいです。勿論、すぐにビジネスにしようと思っては駄目ですけど、自然に積み重なっていって大きなネットワークができるんです。
Q: アジアの情報を集めるという意味でSVの重要性は?
A: そうですね、ここでは例えば中国人同士、インド人同士、韓国人同士といった人脈の
クラブがあるので、そういう所と情報交換すると良いですね。私も韓国政府が半分お金を出しているシリコンバレーでのスタートアップを支援する会の定例会に参加したり、他にも中国人、インド人とも情報交換したりもしています。ただ、日本人のは弱いですね、駐在員主体のネットワークなので。ゴルフしている暇はないですよ。(笑)
Q: シリコンバレーの魅力は?
A: ネットワーク、インフラ、ダイナミックでスピードが速い事です。日本では10年経っても結果が出なかったりしますが、ここでは2〜3年で結果が出る。良い所ばかりではないですが。
Q: 良くない所というのは?
A: 逆に短絡主義なんです。近視眼的なところもあります。リターン主義だから5年利益が出なかったら駄目とか。日本みたいに戦略的に重要だからもうちょっと頑張ってみようかとかはないです。
Q: これまでに面白いと思ったベンチャーは?
A: KeyHoleという会社があって衛星写真と航空写真をデジタルに合成して3Dで見ることができるものを作った。都市計画や観光、不動産などに使える。非常に面白いことをやっています。
Q: SVというのはアイデアの宝庫という感があるのですがアイデアが生まれるのはどうして?
A: そういう教育なんですね。人と違う事をやるのが美徳という考えです。まず教科書がなくて先生が作るんですよ。例えば低学年でアフリカの勉強をしましょうという時間があったとしますよね、その時絵を描く子、国名を覚えた子、歴史を勉強した子、音楽を実演した子、全員丸なんです。個性、自分の得意な事で勝負するんですよ。
Q: 教育でアイデアの出やすさに影響が?
A: すごくあると思いますよ、勿論全てが良いわけではないですけど。またアピールする能力がありますよね、小学校1年から皆の前に立って1人づつ発表する場があったりとか。どんなに良いアイデアでもアピールしなかったら資本家も集まらないですし、お客さんも獲得できません。こっちの人は小さな頃からやっているからプレゼンテーションは勝てないです。
Q: どういう所が?
A: もう全て。日本だと固くなってしまうでしょ?こっちは小さな頃からやっているから恐怖感もないですし、どういう風にスムーズに行えば伝わるかを体で鍛えられているんです。中身は別としてもプレゼンテーションはすごく上手いです。頭が固くならないうちにこっちの教育、会社を体験して良い所を吸収して日本に持って帰らないと、日本が変わるのを待っていては駄目だと思いますよ。だって土曜日を休みにするのでも10年位かかったでしょ?それで土曜日休みになったから学力が下がっただなんて文句言ってますよね。そんなの個人の勝手だろって思いますよ。それを学校に求めている事がおかしいですよ。日本はそういう社会なんですよね。根本的に違いがあるからまだ時間はかかりますよね。
Q: 原さんご自身は日本にいつか戻ろうという考えはありますか?
A: それはいずれは。今はやっぱりこっちで仕事していますけど、8時間で帰れますからしょっちゅう帰ってますよ。教育面でもこっちは個性を伸ばす等の意味でも非常に良いのでまだこっちにいたいです。日本だとお受験とかありますよね。こっちでも本当に良い大学に入るのは大変ですけど。
Q: 他、どういうご苦労がありましたか?
A: 社会的なインフラは日本の方が優れています、電気ガス水道とか治安の意味で。サービスの質も悪いですしね、でも慣れてしまえば平気です。
Q: 日本の学生の中ではこっちに来る不安感が大きい人が多いのですがどう思いますか?
A: 一歩踏み出す勇気です、その後は前に進むしかないですから。自分から出て行って色んな人に協力を求めると結構協力してくれます。自己PRをすれば。プロセスを積んで、自分の中でのインフラを作らないと日本からアメリカに来てすぐスタートアップは無理だと思います。シリコンバレーでスタートアップをするのも良いですけど、ここで経験して日本に帰ってスタートアップするのも良いと思いますよ。日本も変わってきてますし。
Q: 自分の中のインフラとは?
A: シリコンバレーで仕事をしたりシリコンバレー流の仕事をしたいならここの会社に入って何年か働いた方が良いです。習うより慣れろですから。その時に3年後にこうしたいからというような意識を持って人脈を作ると良いです。
Q: SVに来たいと思っている人へのメッセージは?
A: 日本を枠として捉えない事、簡単ではないが最初の一歩出してしまえばサポートしてくれる人がたくさんいますから、そういう経験を積んで欲しいです。がむしゃらにやるんだけど最終的に自分の意見を絞って、3年後5年後10年後にどういう風になっていたい、どこでどういう仕事をやっていたいというのをイメージしてチャレンジしていくという事ですね。
ありがとうございました。
■ インタビュアー感想 :池田森人
原さんの生き方を伺って、これからのビジョンと自分の現状を常に分析している冷静さと、それに向けて積極的に挑戦しているアグレッシブさの両面を備えている事が着実に成功に導く秘訣であり、シリコンバレーのスタイルな気がしました。今の自分はそのどちらも欠けていますが、このマインドセットを意識して行動していく事はすぐにでもできることであり、やるべき事だと思いました。
■ インタビュアー感想 :石戸奈々子
将来の自分のイメージを持った上でがむしゃらにがんばる、原さんのインタビューの中で最も印象に残ったメッセージです。シリコンバレーで働いていらっしゃる方々は、
ここのインフラがスタートアップを可能にしている、とおっしゃいます。しかし、インフラだけの問題ではなくそこで働いている人の意識、マインドがそれを可能にさせているのだ、と痛感しました。
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