あたりまえになってきたテレコミューティング。過去にこのアイデアが提案された時は、家で一人で仕事をしていれば生産性がさがるのではないかという指摘がありましたが、もうこれは古い考えのようです。今回は、ソフトウェアエンジニアとして活躍中の松原晶子さんにテレコミューティングの利点や問題点について細かくレポートしていただきました。必読!
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私の周辺でテレコミュートする人が急増している。ここで言うテレコミュートとは、シリコンバレー本社の社員が各地の支社と遠距離で働くということではなく、本社に勤務しながらも、自宅から働くという意味である。例えば、ロサンジェルスに居住しているエンジニアがシリコンバレーに所在する企業の開発チームの一員として採用され、引っ越すことなくロスにいるまま働く場合である。そうしたテレコミューターは、通常自宅で働き、必要に応じて週に一回、月に一回などの割合で本社に出勤する。
テレコミューターの多くは、対面コミュニケーションの必要性のあまり高くないソフトウェアエンジニア等の技術者である。しかし、近頃ではビデオ会議などのコミュニケーションツールの発達に伴いマーケティングなどの従来本社にいなければならなかった職種や管理職、経営職でも増加する傾向にあるようだ。例えば、テレコミュートしているマネジャーが、各スタッフとiSightを使用してミーティングを行うことは日常化している。
興味深いのは、東海岸など遠方からのテレコミュートではなくても、シリコンバレー内、そしてその周辺からのテレコミューターが増加していることである。地価が高騰したシリコンバレー中心地の一戸建には手が届かないので会社から1時間以上通勤時間がかかる郊外に家を購入した人や、シリコンバレーの中心地に居住していて通勤にそれ程時間がかからなくても、家事や子供の世話をしながら仕事ができる、他人に仕事の邪魔をされにくいため自宅の方が集中して仕事ができる、などの理由から、週に数日だけ会社に出勤し、残りの日は自宅で働くというライフスタイルを送る人たちである。個人の時間の節約という点では、テレコミュートは非常に合理的なのは明らかである。
ただし、テレコミュートにも不都合はある。最もよく挙がるのは以下の2点である。
1. 家庭と仕事の境界がなくなる
2. 同僚とのコミュニケーションが稀薄になる
#1は、家で働いていると、起きてきるときは常に仕事をしているような状態になってしまいがちであるということ。家で仕事をしていると自制ができなくなり、サボってばかりになるのではないかと疑問に思われるかも知れないが、サボっていて結果が出なければすぐにクビになったりするので、実際に課題となるのは、仕事中毒にならずにいかに効率よく気分転換できるかということのほうが多いようだ。
より深刻なのは#2である。めったに出勤しなければ、職場仲間とのランチなどに参加する機会がどうしても減り、チームメートとの親睦を深める努力を特に意識して行わないと、自分だけ孤立してしまう。仲間から孤立し上司とのコミュニケーションも稀薄になってしまえば、当然リストラの対象にもなりやすくなる。さらに、遠距離で働いていると、特に用件がある場合以外に同僚と会話をしない傾向になるので、‘なんとなく’の会話が格段に減り、雑談からアイデアが生まれる機会が著しく減少してしまう。イノベーションが最も起こりやすいのは実は同僚との雑談からとも言われている。これはテレコミュニケーター個人の問題のみではなく、会社全体のデメリットである。
さて、テレコミューターが増加すれば、彼らと働く出勤組みも必然的にテレコミューターのように働かざるを得ない、という状況になってくる。私の経験では、様々なツールを活用すれば、これは想像するよりも不都合なことではない。遠距離のプロジェクトパートナーとIMツールを活用して話し合い、これにメールと電話も付け加えて使用する。電話の場合、首に受話器を挟んで長時間会話していると、首が筋肉痛になって大変なことになるので、ヘッドセットは必需品。そして、ソフトウェアの開発においては必要に応じてNetMeetingでデスクトップを共有し、遠距離でコードのデバッグを行うことが可能だ。
ちなみにNetMeetingなどのツールは、たとえ遠距離で仕事をしていなくても非常に便利。同じプロジェクトをしている同僚が隣のオフィスに座っていたとしても、二人で椅子を隣に並べて同じモニターを覗き込んでコードレビューなんかをするよりも、NetMeetingでつなげてモニターを見ながらゆったりとディスカッション(電話+ヘッドセット)をした方が効率的なのだ。
このようなツールの発達により、遠距離で仕事をすることは一昔前に比べてかなり容易になった。しかし、これには唯一例外がある。大幅に時差がある場合である。シリコンバレーに勤務する者がオレゴン州在住の者と同プロジェクトに関わることには問題がない。そしてハワイを除く米国内程度の時差もそれほど問題はない。しかし、シリコンバレーから、例えばイタリアに住む同僚と仕事をするのは時差が大きくなるため大変困難になる。こちらが出勤する頃には向こうは仕事を終了して帰宅する時刻である。どちらかが妥協して、早朝出勤するか居残りをしなければならない。そして、ほんの些細な問題をメールで話し合う場合でも返事が来るのに丸一日かかってしまう。同サイトで働いていれば、5分で解決するようなことが1週間メールのやり取りをしても埒があかず、結局、効率を補うためにどちらかが飛行機で飛ぶことになる。
一方、時差を有効に利用することも可能である。例えば、毎晩深夜から行われるデイリービルドが壊れた場合、シリコンバレーより2時間早く活動を始めるダラスのチームメートがビルドを修正、再開始してくれ、シリコンバレー組みが出勤する頃には修正されたビルドが完了しているということもある。また、海を挟んで時差が13時間にもなってしまう場合でも、開発エンジニアとQAエンジニアのような組み合わせならば、お互いが寝ている間にプロセスを交互に行い、24時間フル稼働で働くことができる。
通信ネットワークやツールが発達するにつれ、製品を生み出す職場もさらにグローバルに分散し、世界中に散らばったテレコミューターが共同作業を行う機会は益々増えるであろう。そのような状況で、テレコミュートのデメリットを縮小し、メリットを最大化するプロセスをいかに築くかがこれから重要な課題となってくるのではないか。
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