シリコンバレーと聞くと「ハイテク産業とITの聖地」として, 近未来風のとてつもない大都会を想像してしまうかもしれませんが, 実際は拍子抜けしてしまうほどの”超ど田舎”であることに驚くでしょう。ちょっと小高いビルや丘からシリコンバレーを眺めてみると, 青々とした森林と枯草で覆われた山々が見えるだけで都会の風景とは程遠いです。以下, 実例をあげながらシリコンバレーの田舎ぶりを紹介していきます。


■自然が豊かなシリコンバレー
シリコンバレーの一つの定義としては以下のようなものがあります(抜粋)。
“located on the San Francisco, California, peninsula, radiates outward from Stanford University. It is outlined by the San Francisco Bay on the east, the Santa Cruz Mountains on the west, and the Coast Range to the southeast.”
(サンフランシスコ湾と西に位置するサンタクルズ山脈, 南東のコースト山脈に囲まれ, スタンフォード大学を中心とした地域)
出典
“The history of Silicon Valley”
(http://www.websofinnovation.com/svhistory.htm) Alexander Laudon
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シリコンバレーと呼ばれるからには, チップ工場や近代的なオフィスビルが山々で囲まれた谷間に立ち並んでいると思うかもしれないでしょう。確かに上の定義にもあるように, 広く見ると周囲を山々で囲まれてはいるのですが, 山と山の離れている距離が日本人的な感覚では遠く, 「シリコン畑(チップ工場)」 が立ち並ぶ 「バレー(日本人のイメージでは盆地が近いかもしれない)」とはギャップがあります。むしろシリコンプレイン(Sillicon Plain)と呼ぶ方が合っているかもしれません。サンフランシスコの北東にあるワイナリーで有名な「ナパバレー」のほうがよほど谷間のイメージに近いでしょう。
「百聞は一見にしかず」なので幾つか写真を紹介します。
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スタンフォード大学構内のHoover Towerからキャンパスを眺める
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スタンフォード大学裏のDishからSan Jose方向の景色(7月)
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冬のDishの風景(1月)
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夏のDishの風景(7月)
基本的に見えるのは, 場所にもよりますが, 森と山(およびサンフランシスコ湾)ですね。とくに昼間は雲一つない快晴であることがほとんどなので, 青い空に地上の緑が映えます。
加えてここの気候はよく知られているように, 湿度が低くて夏でもさほど気温が高くなくとても過ごしやすいです(下図: 数字は華氏)。寝苦しくて寝られないということは1年を通じて7日程度(ニュースレター編集会議に参加したメンバ-の経験上)。また11月から2月にかけて雨季になります。そのころは連日雨が降るか曇っていることが多くなり, いわゆるカリフォルニア的な気候からは遠ざかりますが, 晴れていれば1年で一番景色が美しい時期でしょう。なぜなら, 冬に雨が降るおかげで夏は枯草ばかりの山々が緑であふれかえります。
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出典: Palo Alto online
建物についてはは平屋が多く, 高くても2,3階建てというのが少なくないです。会社が入っているビルはそれなりに高さがあるのではありますが, 東京タワーを根本から見上げるような状況は皆無といってよいでしょう。また, それら建物は上の写真にあるような森林地帯にぽつりぽつりと点在しているため, この地帯での移動は車が必須となります。それも, 高速道路(Free Way, 無料)を使わない移動は珍しいというくらい高速道路は一般道路のごとく利用します。
座談会参加者の経験談 あるとき「シリコンバレーに行きたいんだけど, 道を教えて欲しい」と尋ねられた。「(Palo Alto市にいたので)ここも一応そうなんだけど…」と思いつつ, HPやXeroxのあるPage Mill(道路)までの道順を教えてあげた。きっと本人はたどり着いた先をみて, だまされたと思ったに違いない。おそらく彼はシリコンバレーというと, ある一画にビルが立ち並ぶオフィス街があると想像していたのだろう。
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■野性動物の巣窟
実際に生活してみると植物だけでなく, シリコンバレーには動物も数多く生息していることに驚きます。日本では普段見掛けない動物が多く, 特にリスなどの愛らしい姿には感激するのではないでしょうか(しばらく生活すると日本で雀や鳩を見るように, 特別になんとも思わなくなるのでありますが)。
また, スタンフォード大学の裏山(通称Dish)には牛の群れやMountain Lion と呼ばれる獰猛な野獣がいるし(人を襲うこともある), XeroxのPalo Alto研究所のすぐそばには牧場があり, 道路標識には「鹿を跳ねないように注意しましょう」という看板まで立てられています。実際に鹿が道路を悠々と横断している場面に遭遇することもあるし, リスなどの小動物が不幸にも車に引かれてしまうことは日常茶飯事です。
以下, シリコンバレーで見かける(見かける可能性のある)動物を挙げてみます。
Mountain Lion
リス
アライグマ
スカンク
ハチドリ
バナナスラッグ
ヘビ、トカゲ
鳶や鷹
シリコンバレー野性動物写真コンテストにて写真が公開されているため, 詳細はそちらに譲ります。
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■買物事情
主な食料品店は午後10時, レストランにしても午後10-11時には店を閉めてしまいます。中には例外としてSafewayのような24時間営業の店もありますが, 日本のように家から歩いて(しかもパジャマ+サンダルで)10秒行けるコンビニエンスストアのような便利なものはなく, 基本的に車で出かけて往復30分はかかるのが普通です(自転車で行ける範囲にあることもありますが)。結局のところ, 仕事が遅くなって帰りに食料品の買物をしようと思っても Safewayしか開いていないということや, 作る手間を惜しんで外食で済ませようとしても深夜まで営業してるハンバーガーショップなどへ行くという羽目になってしまいます。
比較的遅くまで開いている店の例
Safeway (食料品店): 24時間 http://www.safeway.com/
IN&OUT (ハンバーガーショップ): 10:30am – 1:30am http://www.inandout.com/
Krispy Kreme Doughnuts (ドーナツショップ): 6am – 2am http://www.krispykreme.com/
Walgreens (薬局): 24時間 (そうでない店舗もある) http://www.walgreens.com/
多民族国家であるアメリカの特色を反映して, 千差万別, 様々な国の食料品店があり食材のバラエティはむしろ日本よりも豊かです。しかし, すべてのものが1ヶ所で手に入ることは不可能ですので, いろいろと欲しいものを探し求めて行くと必然的に時間がかかってしまいます。例として, 私のある日曜日の買い物を挙げてみます。
1. 生鮮食品(肉と魚類)を中華マーケット(Marina Market)で買い
2. 日本の食材(乾物類, 納豆, 醤油など)を日本マーケット(Mitsuwa)でそろえ
3. キムチと炒め物用の薄切り肉を韓国マーケット(Hankook Market)で買い
4. 牛乳とシリアル、果物をSafewayで買う
各々の店の移動に高速を使って平均15~30分はかかり、総して3時間程度はかかります。走行距離にしたら(Palo Altoから出発して)40~50マイル(1マイルはおよそ1.6km)は走っていますね。 4箇所も「はしご」をして買物をすることは毎回のことではありませんが, 1件の店で買物をするにしても30分~1時間はかかってしまいます。
余談ながら, 自分で調理するのが好きな人にとっては逆に「すばらしい環境」と言えます。おしなべて食材の価格は日本の場合と比べて安いので, やりくり次第ではエンゲル係数を20~30パーセント程度は下げることができる可能性があります。もしこれから渡米される予定がある方は英語に加えて, 料理も練習していくと有意義な食生活が送られるでしょう。
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■生活事情, こぼれ話など
「ど田舎」でありながら不思議な事実として住居があります。上の写真でも見られるように, 建物は疎らにしかないため土地は十分に余っていて地価が安く, 家も安く買うことができるのではないかと期待したくなります。ところが, 期待に反してシリコンバレーの住宅は異常な程に高いのです。また, 生活費は思った程安くなく, 東京などで生活するよりも高くつくと感じるかもしれません(とくに医療費)。しかしながら, 同じ金額を投資した場合に得られるクォリティについては(外食産業を除けば) ここの方が高いと思います。
アメリカのGDP (per capita): $35,991 (per person)
日本のGDP (per capita): $28,699 (per person)
Palo AltoのMedian Family Income(2000): $114,574 出典
http://www.nationmaster.com/country/us/Economy
http://www.nationmaster.com/country/ja/Economy
http://www.paloaltoonline.com/com_info/by_the_numbers.shtml
事実, ここは超田舎であると同時に「超高級住宅地帯」なのです。たとえば, Palo Alto市のMedian home price(2003年)は $1,065,000, Median monthly rent (2003年)は $1,607 となっています。 Palo Alto周辺の物価はアメリカ全土の平均値の1.4倍とも言われています。また, 土地が十分に余っているわりに使われないのは, 景観を保護するために富裕層が土地を買い占めているからとの噂があったり, 金持ちは富を得た後で最後に手にしたいと思うのは”孤独”だといわれていてそれゆえに人工密度が低いのではないかという推測もあるほどです。
Palo Alto市以外の統計データ
Los Altos Hills
Median household income: $173,570 (year 2000)
Median house value: $1,000,001 (year 2000)
Hillsborough
Median household income: $193,157 (year 2000)
Median house value: $1,000,000 (year 2000)
出典
http://www.city-data.com/city/Los-Altos-Hills-California.html
http://www.city-data.com/city/Hillsborough-California.html
東京や大阪などの都会では特にそうなのですが, 日本では毎日着る衣服にとても気をつかうと思います。しかしながら, ここではお洒落とはあまり縁がありません。夜のPalo Alto Downtownこそ多少の綺麗な恰好をしている若者は見かけられますが概ねラフな服装しかしていません。逆に, 日本で普段着ていたような恰好では違和感を覚えるくらいです。
夏ならTシャツにジーンズという姿がごく普通であるし, スーツでネクタイをしているのは出張などで訪れている人達(特にアジア系)が多いです。余談ですが, 冬でも半袖Tシャツを着る人もいる傍ら, ダウンジャケットにマフラーをしている人も同時に見られるのが面白い。常夏というイメージを持たれている方もいらっしゃるかもしれませんが, シリコンバレーの冬の気温は摂氏5度を下回ることもあり, 防寒具は必須です。
加えて車での移動が基本で, 歩く機会が(エクササイズ以外では)ほとんどないこともあり, 履物にも特に気を使わない, というか使う必要がなくなってきます(万年サンダルという人もいるくらい)。週末は終始上下ジャージでOK, レストランに入るときも問題ないという人もいます。また, たまに日本に帰国して, うっかり(?)気に入った服を買ってみたもののこちらへ戻ってくるとクローゼットで永眠してしまうこともあったり, 逆に, 日本へ行くときは(こちらの恰好に慣れているせいで)着る服に困ったりします。
1つの結論として, こちらで暮らしていると物に対する欲望, 物欲がしだいに薄れていくような感があります。そのため買物を楽しむということはほとんどしなくなるかもしれませんが, その代わりに, エキサイティングな仕事や余暇を楽しむことに情熱が湧いてきます。実際にスポーツやキャンプなどのアウトドアライフを楽しむ時間がぐっと増えるという意見が多いです。ポピュラーなスポーツとしては, ゴルフ, サーフィン, テニス, ベースボール, フットボールなど様々, エクササイズとしてウォーキングやジョギングを楽しむ人も数多いです。
アメリカでの暗黙の了解として, 男性は「ショッピングが大好きだ」とは絶対に言わないのだとか。ショッピングは「女性が好きなこと」というのが常識のようです。
都会の街で遊ぶのを好むならばここは少々退屈するかもしれないですね。いわゆるナイトライフを楽しみたいのならばサンフランシスコ辺りまで出かけて行く必要があります (San Joseからでも車で1時間程度で行かれるので, さほど大した距離ではありません, 片道50マイル程度)。
Palo Alto周辺のゴルフコースの数: 53 (出典 http://www.golfcourse.com/)
スタンフォード大学のゴルフ場 は学生であれば, 1ラウンド$20でプレイすることができます。 朝一番に後半9ホールをプレイするBack-9 Playであれば$10でOKで, 朝の授業が始まる前に一汗かくこともできます。
話は変わりますが, 特に冬場の面白い現象として, 大雨がふっただけで電柱や街路樹が倒れるなどして町中が停電してしまうという, 日本では絶対にありえないようなことも起こります。いざ修理を頼んでもなかなか来なくて1~2週間電気のない生活を余儀なくされるケースもあるようです。大雨とは言っても1時間あたりに数mm~数cm程度のもので, 降水量の多い地域で育った自分としては普通の雨なのですが。
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■最後に
以上, 簡単ではありますがシリコンバレーが田舎である様子を紹介させていただきました。日本では当り前のことが通用しなくて不便だと感じることがあるかもしれませんが, 概して多くの人がシリコンバレーでの生活が気に入るようです。短期で派遣されている駐在員や学生の方々は「日本(特に首都圏/大都市圏)に帰りたくない」と漏らすこともあるくらいで, 帰国後に「逆カルチャーショック」に加えて「逆ホームシック」になることもあるのだとか。
シリコンバレーの窮極の魅力は、そんなど田舎でもリラックスしたムードに浸りながら「Highly Educated People」のための仕事があるというところでしょうか。