米国カリフォルニア州、シリコンバレーはコンピューター科学とその企業化で有名であることはいうまでもないが、生命科学分野でもスタンフォード大学、UC Barkley、UC San Franciscoを中心として、UC Santa Cruz、UC Davisも含めると、恒常的に多大な研究業績と、人材を輩出している。いわゆるバイオベンチャーの始まりは、1970年代の後半に誕生したジェネンテック(南サンフランシスコ)である。最近の統計では、これらの大学から生まれた知的財産に関係して生まれたバイオ企業は163あり、年間にそれら企業から大学にもたらされる特許使用料は100億円をこえている。
最近、生命科学と先端情報技術とは、ヒト全遺伝子情報の高速解析とデータベース化の完成に象徴されるように、様々な局面で加速度的に融合していて、例えばバイオインフォーマティクスと呼ばれる新しい学問分野と産業分野を生み出している。したがって、このシリコンバレー/ベイエリアが今、広い意味でのバイオ-コンピュー技術(Bio-computing technology)分野での基礎研究、応用研究、新規産業創設に関して、さらなる世界的なリーダーシップを取っていることは当然であろう。
では、具体的にどんなことが今、個々の大学で起きているのか? 有名な成功者、ジムクラークが一年半ほど前、スタンフォード大学に$150Mを寄贈したことはご存知の読者も多いでしょう。それを基に、この大学が創りつつある新規の研究所(クラークセンター)が今たちあがりつつある。現在、バイオーX というコード名で内容が公表されているが、一言で言えば大学の将来像を試行するモデル研究所との位置付けで、キーワードは専門性の壁のない、と言う意味での Interdisciplinary である。つまり、既存の学部運営方式を廃止し、複数の専門の異なる研究者が共同してこそ推進できるプロジェクトをまず設定し、賛同研究者が同じ場所でそれを推進する、という運営理方式を採用している。たとえば、応用物理学、化学、生物学、医学の専門研究者が共同して、医学応用のマイクロマシン開発とか、移植用の人工組織の開発などを行うというものである。
興味深いことに、UC San Francisco校でも似たような理念のもとで新規の分校をミッションベイプロジェクト と称して進めている。こちらはその規模からいえば、米国の大学史上最大のもので、120へクタールという広大な土地を市が大学に無償で提供したことに始まる。今後10ー15年かかるが、最終的にはUCSFのキャンパスを中心とし、その周りをバイオテクノロジー、コンピュターテクノの企業を誘致し、その周辺に居住区を構えるという壮大な都市計画でもある。その新研究所の運営理念もまた Interdisciplinaryである。
スタンフォード大学にはコンピューターサイエンス学科と医学部が共同で運営する、Biomedical Information Technology という名のプログラムがあり、主としてマスターコースの学生を中心とした応用研究(50プロジェクト)を進めている。その共同利用設備は、64台のシリコングラフィックス社製のスーパーコンピューターからなり、そのうち半分は寄付であるとのこと。毎年、公開で学内発表会のようなものを Biomedical Computation at Stanfordとして開催している。私も参加したが、ほとんどの学生はインド系か中国系で、極めていきいきと、ありとあらゆる可能性の追求をしていることに強い印象をうけた。コンピューターサイエンスを用いた、遺伝子や蛋白質の構造、機能予測などはもちろんであるが、例えば、
* A real time free hand 3D ultrasound system for image guided surgery
* An interactive bio-mechanical model of human hand
* Computerized decision support system for management of hypertension
などなど、医学的な研究、診断、治療、教育など多面的応用研究である。
私がこの報告で言いたいことは、今このシリコンバレー/ベイエリアの大学を中心として起きている、ひとつの大きな学際的潮流であり、それを可能としている若いエネルギーの参加と柔軟な運営システムの構築である。
筆者紹介
金島秀人/東京大学シリコンバレーオフィス・ディレクター
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