外国暮らしの経験をお持ちでありながら、初めは日本企業にお勤めになられ、また、エンジニアでありながらMBAを取得された藤枝さんからは、働く女性としての視点、MBAをとってから友人と始めたスタートアップと現在のお仕事についてなどをお聞きすることが出来ました。(インタビュー日:2002年6月19日)

プロファイル

小学校、高校時代をアメリカで過ごし、中学校、大学時代を日本で過ごす。大学卒業後大手電機メーカーに就職。MBAを習得した後、友人とベンチャー企業立ち上げなどを経て、現在Siebel SystemsにてSenior product managerをつとめる。

  • http://www.siebel.com/

インタビュー

Q: 藤枝さんのこれまでのご経歴について簡単にお話していただけますか?
A: 小学校と高校をアメリカで過ごし、中学と大学を日本で過ごし、アメリカには合計15年程住んでいます。4年間富士ゼロックスに勤め、ビジネススクールに留学するチャンスを得て、アメリカでMBA及びMSCS(Master
in Computer Science)を取りました。卒業後は、もと同級生の数名と一緒にとスタートアップを始めました。10人位でスタートして、4ケ月程は同僚の家をオフィスに改造し仕事をするような感じだったです。マーケティングがキッチン、オペレーションはダイニングルーム、エンジニアは地下室、会議室はマスターベッドルームでした。最終的には資金調達が上手くいかず、1年程で閉じることになりました。その後は今のSEIBELで働いています。
Q: 現在のお仕事について教えていただけますか?
A: 現在はElearningのプロダクトマネージャーをしています。SIEBELはCRMソフトウェアの会社で、企業とお客様と接点の全てを一括で管理する事によりその企業の生産性及び顧客満足度を向上させる事を可能としてい。そのソリューションの一部にあたるElearningのプロダクトラインに関しての商品の要求仕様をまとめ、エンジニアと一緒にプロダクトを作り上げ、市場導入そして営業サポート等と、平たく言えばプロダクトのゆりかごから墓場までの面倒を見るような仕事をしています。
Q: エンジニアである藤枝さんがMBAを取ろうとお考えになったのはなぜですか?
A: 大手企業にエンジニアとして勤めていたとき、個々のお客さんの顔が見えなかったために、自分がやっていることがどのようにお客様の役に立っているのかが見えませんでした。だから、自分がやっていることの意義を実感として持ちたい、また、ビジネスの事をもっと知りたいと思い、留学を考えました。
Q: MBAコースでの授業はどのように今の自分に役に立っていると思われますか?
A: ケーススタディーの授業等は自分がCEOだったらという仮定でやるので、正直言って今の自分には直接的には役立ってはいないような気はします。現実はもっと下のことをやっていますから。ただ、ファイナンスに関する資料等に強くなったり、ストラテジーのフレームワークが分かったり、リーダーシップとは何か?などを学んだ事は確実に役立っています。また、同世代の多様で優秀な人たちと触れ合うことができて刺激的でしたし、何よりもそこで知り合った人との人脈がとても貴重なものとなっています。ただ、人脈が広くなると、分からないことがあった時や困ったときに助けてくれる人が多いという良い面もあるのですが、何か失態を犯すとその噂が一気に広まってしまうという悪い面もありますが…。
Q: MBAを実際に取ったことで起業しようと思われたのですか?
A: いいえ、まさか自分が起業に携わるなんて夢にも思っていませんで、友人に誘われて始める事になった次第です。ただ、会社を興せるのは特別な人ではなく、アイデアとやる気のある人だということをMBA時代に感じたことは確かです。やってみることで企業を起こす現場、もちろんいい点もあれば辛い点も、を見ることができ貴重な経験になりました。

MBAを持っているからと言って、全員が自分で起業するタイプではないと思うのです。スタートアップに必要なものは、大きなビジョンをもつアントレプレナーとそのビジョンの確実なるexecutionの両方です。自分は限られたリソースの中でどうやっていくのかを考えるのが比較的得意なので、今後また自分が一緒に仕事がしたいアントレプレナーがいれば是非またやってみたいと思います。やはり、小さいところでやっている方が、自分の影響力が大きいですから、いろいろできて、自分のやっていることの意義が見えやすいですし。自分がやりたい仲間とやりたいことをやれればいいですよね。

Q: スタートアップだと何かと不安材料が多い気がするのですが‥
A: スタートアップへの不安は大企業でも同じではないでしょうか。シリコンバレーの場合は大企業でもよく大量解雇するので大企業にいるから仕事が保障されていることはありません。その点かえってスタートアップの方がある程度自分のデスティニーをコントロールできる(もちろん資金はともかくとして)かとも思います。

また、シリコンバレーではベンチャー企業を侮ったりしません。大企業でも全てのソリューションを提供できるわけではなく、小さな会社とアライアンスを組んで埋め合わせをしています。この景気で最近は縮小気味ですが、大企業の中には大抵ベンチャーファンドがあり、その企業に戦略的価値があると思えば投資し、将来的に吸収することもあります。交渉の際には会社の規模でなく、どちらがマーケットに影響力があるかが問題ですし。そういう環境を考えると、スタートアップだから不安ということはないと思っています。

Q: 日本よりアメリカの企業を選んだのはなぜですか?
A: 起業をする際には創設者と話をし、当時は “once in a lifetime opportunity”でこれを逃したら一生後悔する、と思った為シリコンバレーに残りました。今となっては「バブル」でしたが、当時のシリコンバレーの舞台で自分を試してみたいと思ったのです。バブルがはじけ、今は景気が悪いですが、それでもやっぱりテクノロジーの最先端をいくこの地域は魅力的です。

結局就職というのは、どういう技術を持っているかが問題で、自分のやりたいことに活用できるスキルをどこに売るかだと思います。例えば、Siebelという会社はまだ創立8年目という新しい会社なので、実務経験者をキーとなるポジションに雇う事で経験や即戦力をお金で買っています。だから、私にとっても今後のキャリアとしては日本に戻ることも、オプションを広げるという意味では考えています。

Q: シリコンバレーの魅力は何だと思われますか?
A: とりあえず私はソフトウェアを仕事にしていますので、シリコンバレーはソフトウェアの中心であり、最先端の状況が肌で感じられる点が魅力的です。ここでソフトウェアの仕事をしていれば世界中のソフトウェア業界で通じるのではないかとも期待しています。また、気候がよいですし、東海岸よりも差別が少ない点もいいですよね。例えばこのあたりの会社のエンジニア部門に行くとほぼインド人と中国人です。彼らはすばらしい才能を発揮してシリコンバレーの発展に大きく貢献しています。こうやって人種差別をしないことで色々な人の才能を集められる環境があります。言葉ができなくてもスキルがあれば認めてくれるし、何かしたいと思ったときのインフラが整っているし、サポートしてくれる人も多いです。

また、起業活動などで失敗してもそのときの対応さえ誤らなければ、セカンド・サードチャンスを与えてくれる所です。ただ、訴訟社会なので絶えず自分を守らなくてはならないし、絶えず自分をアピールしなくてはならないのが疲れます。会社でも、日本のように結果を誰かが見て自動的に評価してくれるわけでありません。自分で出した結果を絶えずアピールしなくては認めてもらえないので、本来控えめな自分にとっては疲れるのは確かです。だから、シリコンバレーは、自分でやりたいことをやれる人に向いているけれど、人からやることを与えられるのを待っている人には向いていない場所なのではないでしょうか。

Q: アメリカの企業と日本の企業では女性としての立場に違いがあると思われますか?
A: アメリカでも女性が上層部にいくのは難しいと思います。ある程度上層部へは行きますが、本当のトップになるには正直言っていわゆるグラス・シーリングが今でもある気がします。家庭子育てとの両立はやはり難しいですよね。NO KIDSのキャリアウーマンは多いですよ。私個人としては、日本企業に居た時も差別は受けた覚えはなかったので、日本の企業と比較してどうの、というのはわかりません。また、普通に働いている場合は、女性だからというより、男女共に自分の取る態度によって結果が変わってくると思うのです。大事なのは、何か誤解が生じていそうなときや人脈を広げたいときにはまめにメールを打ったり、電話をしたりというちょっとした心遣いでしょうね。
Q: 最後に、日本の学生に一言お願いできますでしょうか。
A: 夢は描いていると意外と叶うものだと思います。毎日自分がたてた目標に対して一歩一歩ステップを踏んでいるうちに夢に近づくものなのではないでしょうか。

私も日本の企業に勤めていたときには、アメリカのビジネススクールに行ってキャリアを伸ばしたい、と漠然と思っていた時に、富士ゼロックスで多くの方にそういう風に教えられて、その夢に繋がるようなことを淡々とやってきた事が今の自分につながってきたと思います。尚、その夢を周りに伝えた事で周りの方に大変お世話になりました。支援してくれる人はたくさんいると思います。

『やりたいと思って、やろうと思えば道は開ける』そう信じて、夢があるならば、自分のスキルと磨くなど、あせらず一歩一歩確実に夢に向かって諦めないでほしいと思います。

インタビュアー感想 :石川智子

控えめで、穏やかな藤枝さんでしたが、自分のご興味のあることを続けたいと言う夢のために、小さなことから一歩一歩確実にこなされているご様子が印象的でした。諦めずに進んでいくことで藤枝さんのように夢を手にできたらいいと思いました。

インタビュアー感想 :石戸奈々子

藤枝さんから、夢は描いていると意外に叶うものだ、というメッセージをいただきましたが、藤枝さんはまさに自分の夢を諦めることなく追い続け、着実に叶えてきた、という印象を受けました。周りに流されることなく、常に前向きに、今自分がすべきことを見極めて、“やりたいこと”を実現していきたいと思いました。